『桜鱒の棲む川』は、私が今まで書いた本の中で
いちばん気持ちの入った一冊になりました。
インタビュー 水口憲哉 氏
●新刊単行本『桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』がいよいよ小社から発行となった。著者の水口憲哉氏の全国のサクラマスの棲む川を巡る旅を『フライの雑誌』誌上で追いかけて幾星霜。企画を立ててから数年がかりでの上梓である。
●「この本を編集者は当初〝世界で初めてのサクラマス本〟というふれ込みで宣伝したいと言ってきたが…」と、本書のあとがきにあるが、そう言ったのは私(堀内)で事実である。
●水口氏はエキセントリックな表現を使いたがる私をいさめ(くわしくは本書を)、つづけて「サクラマスの過去と現在、そしてこれからについてひとつの考え方をまとめたという点において類書がないという自負はある」と書いてくださった。編集者としてにんまりしたくなる。
●本稿の収録は、水口氏の母校で現在はそこの名誉教授を務める品川の東京海洋大学構内にある池のほとり。ソメイヨシノならぬ八重桜が今を盛りと咲き誇っている卯月のとある午後であった。 (編集部/堀内)
〈インタビュー 第1回〉
〈インタビュー 第2回〉
〈インタビュー 第3回〉
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二つの本が一冊になっているような満足感を
その後、2005年に岩手県安家川に遡上したサクラマスの群れを見たことから、今回のサクラマスを巡る旅が始まりました。
この美しい川で、本来海と川とを行き来して生活している魚を入り口のウライ(鉄製のヤナ)ですべて止めてしまうということのおかしさ、この理不尽なことがすべての出発点です。
私の行動原理は〝義憤〟に基づいている傾向があります。サクラマスも、ブラックバスも、原発反対も、ダム反対も、根っこをたどるとこの許さずという〝義憤〟に行き着きます。
川を旅するのと同じように、本州および北海道のサクラマスののぼる川で、釣り人と漁業者、研究者、地域住民がそれぞれどのようにサクラマスと係わっているかを、本書では現在進行形で明らかにしています。それを面白がってくださる方はいらっしゃるだろうと思います。
いっぽうそれとは違った関心で、「サクラマスっていったいどんな魚なんだろう」という興味に答えている本でもあります。
サクラマスの起源から進化、分布、生態、生活史の多様性まで網羅的にとりあげました。ですから二つの本が一冊になっているような満足感があると思います。
サクラマスの最新知識をすべて掲載
本文を補う形で15のコラムを書き下ろしました。コラムではサクラマスの起源から未来までをひろくフォローしています。これまでどこにも出ていない内容ばかりです。
サクラマスは東アジア固有のマスです。アメリカでサクラマスの研究がゼロなのは当然として、近年ロシアではサクラマス(シーマ)の研究が盛んになりつつあります。これからはサクラマスの未解明の部分が徐々に解き明かされていくでしょう。
各章とコラムは、すべて読み切りになっています。どの章、どのコラムだけ読んでも面白く読めます。始めから終わりまで順繰りにすべて読まないと分からない本ではありません。
まあ、ちょっと読んだら全部読みたくなるように作ってありますけれどね。(笑)
(つづく)
〈インタビュー 第1回〉
〈インタビュー 第2回〉
〈インタビュー 第3回〉
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