「朝日のあたる川」新プロジェクト始動

あざーす。

昨夜は「朝日のあたる川」電子版プロジェクトの打ち合わせで都下武蔵小金井へ行った。

メンバーは私と著者の真柄氏、それに今回の企画の親分であるA氏の3人。真柄氏は仕事で遅くなりますとのことだったので、まずはA氏と私とで駅近のファミレスで落ち合って先行して打ち合わせを進めていた。じつはこのA氏はいま注目の電子書籍の世界で、超どメジャーな仕事をつい先日リリースしたばかりの売れっ子クリエイターである。

そのような方となぜ知り合いになれたかというと、もとはと言えば著者の真柄氏の行きつけのフライショップ、ループ・トゥ・ループのお客さん同士であったということで、こんなところでもフライラインは思わぬ人と人とを結びつけたわけだ。タイトライン。A氏の仕事っぷりに関してはまたあらためてご案内できると思う。

で、A氏から電子出版関連の最新情報のレクチャーを受けつつ、「朝日のあたる川」アプリ版でこんなことやろう、あんなことをやろうと二人で盛り上がっていたら、あっというまに2時間が過ぎた。すると私の携帯が鳴って、独特の抑揚のない重低音で「あざーす。真柄っす。いま駅っす。どこ行けばいいっすか」。※編注:「あざーす」とはありがとうございますの意。

なんだなんだなんだなんなんだよ

じゃあ北口のデニーズに来てね、着いたら入り口のところで顔見せて教えてね、というわけでA氏と待った。ところがすぐに着くはずなのにしばらくたっても顔がのぞかない。おかしい。真柄氏は都内にはあまりない顔だから、のぞけばすぐに分る。時間に遅れる男ではないし。

どうしたのかなあと、清算してA氏と二人でファミレスの外に出てみた。するとなんと。ファミレスの入り口のすぐ脇に真柄氏が立って、見知らぬ若い女子二人ととんでもなく楽しそうに談笑しているではないか。なんだなんだなんだ。

女子二人はかなりのクオリティであった。カワイイというよりは、きれいですね、と仰ぎ見たくなる上品で清楚な感じがすばらしい。見た瞬間におじさんはビビッと来た。なんで真柄氏と楽しそうにお話してるの、しかも二人ってなんだ。

私とA氏が出て来たのにきづいた真柄氏は、女子二人に「んじゃっす。」とか言ってにこっと笑うと、女子二人は自転車を小脇に、「ありがとうございましたー。」とにっこり手を振って頭を下げた。つられて私も頭を下げたが、もちろん女子は私に頭を下げたのではない。

おれ出しますよ

自転車に荷物を乗せてもたもたしている女子二人を横目に三人で並んで歩き出して、「おい、なんだよ。どういうことだよ」。私は粗暴な口調で真柄氏に詰め寄った。「いったいなんなんですか、あなたとどういうお知り合いなんですか、あのきれいなお嬢さん方わ。」。

すると真柄氏は山形県人らしい鷹揚な微笑みで、「いま自転車出してあげてたんっす。」

どうやらデニーズ入り口脇にあった激混みの自転車置き場から、自転車を出すのに難儀していた女子二人に気づいた真柄氏がふつうに「おれ出しますよ」と声をかけ、知恵の輪のような自転車置き場の混乱の中から、彼女たちの自転車を現場仕事で鍛えたパワーでサッと取り出してあげたということのようだ。

やっぱり真柄だ

ここで真柄氏の先輩筋にあたるA氏が、「いやあー、やっぱり真柄だ」と感動したように言った。「そういうことだから、オマエは旅先でもみんなによくしてもらえたんだよな!」。

真柄氏は裏表のない親切心がたくまずに全身からにじみ出ているような男だ。真柄氏と相対した人はみな彼のあまりの邪気のなさに毒気を抜かれ、こいつはぜったいこっちを騙さないだろうなというか、こいつにだけは騙されないだろうなという絶対的な安心感を覚える。

それで真柄氏には友達知り合いがとても多く、真柄のやることならばとみんな何かと彼を応援したくなる。今回の旅も真柄氏の乗った軽のワゴンを全国各地の仲間大勢が後ろからいっしょに押してまわってあげていたようなものである。

この人ならだいじょうぶかも

さきほどの美形女子二人は、薄暗がりで「チャリ出しますよ」と声をかけてきた真柄氏に対して、警戒心のつよい都会の美形女子の常として一瞬はたじろいだにしても、真柄氏の顔を見てすぐに(この人ならだいじょうぶそう)と思ったに違いない。

自転車を救い出してあげて「どうぞ」とあくまで紳士的な真柄氏に、彼女らも気持ちよく「ありがとうございます〜」とお礼を述べ、しばし歓談のひとときを楽しんだのであろう。最近とんとごぶさたな純粋な親切に、スッと心が洗われたような心持ちを味わったかもしれない。

その意味で「おい、なんだよ」とあらぬ言葉を口走った下心だけで生きているような私なぞは、たとえ百回生まれ変わっても真柄氏の立場にはなれない。真柄氏のそれは持って生まれた才能というべきキラメキである。こんなことを言ったら本人は「なに言ってんすか」と軽くのけぞるだろうけれども、彼の特質は「朝日のあたる川」の文章の全編に渡ってにじみ出ている。「巻末解説」にもそう書いてある

たぶんうまくいきます

三人集まったし、ともかく河岸をかえようということで、真柄氏とA氏と三人で歩道を歩きだした。するとしばらく行くと、我々の後ろからさきほどの美形女子二人が自転車に乗ってすーっと横を通り過ぎざまに、もういちど真柄氏に向かってにっこり爽やかに「ありがとうございました〜」だって。真柄氏はまるで山形の王子様のように鷹揚に手をふりやがった。

くやしかった私は思わず美形女子二人の背中に向かって「カワイイネッ!」。もちろん無視されたがかまうもんか。

というわけで、そんな事件はあったものの、三人そろって駅前の居酒屋に移った。おいしいサカナをつつきつつ、「朝日のあたる川」アプリ版プロジェクトの具体的アイデアについて私とA氏とは大いに盛り上がった。

真柄氏は私とA氏が出版の未来について議論討論している間、「レモンサワーください」と「あざーす」くらいしか言わなかった。

が、そういう男だから「朝日のあたる川」アプリ版プロジェクトはきっと成功すると思う。

追伸:真柄氏はお店の人にレモンサワーが「生絞りなのかそうでないのか」をしつこく聞いていた。生絞りの方がいいのかと思ったらそうではないようで、「ふつうのレモンサワー」を頼んで満足そうに飲んでいた。

好評です