カニかまなわたし/『コーヒーに憑かれた男たち』

『コーヒーに憑かれた男たち』(嶋中労/中央公論新社/ISBN 9784120036033 /品切)を読了。むちゃくちゃ面白い本だった。ここに描かれた男(や女)たちのコーヒーへの憑かれっぷりの激しさはもとより、一般的には変人とか奇人とか呼ばれてしまう男(や女)たちへの、行間から溢れ出る筆者の愛が素晴らしい。
ことに本の中心となり、筆者が「?狂?を冠すべき」と称す三人の男たちにおいては、同時代に生きていることの幸運を感謝したい。コーヒーを産さない日本はじつは世界随一のコーヒー文化を持っている。本書で語られる三人の男たちがそれを体現している。
筆者の言うカニかま文化(カニかましか食べたことがない人はカニかまをカニと思ってしまう)は、コーヒーに限らず身の回りにたくさん転がっていておいでおいでと手招きしている。それは安穏として意外に居心地が良いので、わたしたちはふと気を抜くとふらふらと吸い寄せられてしまう。フライフィッシング然り。
カニかまに罪はないが、カニの味を知らない人間にもちろんカニは語れない。白状すれば、コーヒー好きを自称しながら恥ずかしくも最近ネル式ドリップを始めたばかりの我が身もカニかまなのではなかったか。