『朝日のあたる川 赤貧にっぽん釣りの旅二万三千キロ』(真柄慎一著・フライの雑誌社刊)が、10月3日付け毎日新聞・書評欄「今週の本棚」のなかの一冊に採用されました。
『朝日のあたる川』はとことん呑気で、どこまでも人を信じ、愚直なほどにがんこな29歳の若者が、仕事も住む家も捨て赤貧にまみれつつ、日本中をひたすら釣りをしながら、多くの人々に助けられて旅をした半年間の記録です。
編集者の私は、『フライの雑誌』連載中から本作品を、〈もっとも浮世離れした旅日記〉だと解釈していました。とかく生きづらい現代だから、こんな呑気な若者の旅日記を面白がってくださる方もいるのでは、との思いがありました。あまりにも呑気な作品であるゆえに、そこには同時に不安もありました。
連載が単行本『朝日のあたる川』となってから、思いがけないほど幅広いジャンルの方々に注目され、共感をいただいています。毎日新聞の評者さんのように、釣り関係以外の方から、〈釣りに興味がない人が読んでもおもしろいとおもう。〉と言っていただけることには、編集者としてそして釣り人として大きな喜びを感じます。
『朝日のあたる川』がこんなにもたくさんの支持をいただいている理由は、いったい何だろうと考えます。おそらくは本作品でごく当たり前のように展開されている浮世離れっぷりこそが、まさに浮き世から受け入れられた理由なのでしょう。
本作を何十回となく読み返している私でさえ、いまだに読むと所々でページを繰る手が止まります。とくに北海道篇で、丘に放牧されているサラブレッドのたてがみをみて、東京に残した彼女のエミちゃんの黒髪の匂いを著者が思い出すくだりでは、毎度ウ〜ムと身悶えします。百年たってよみがえった自然主義に押し倒される感じです。
とことん呑気で、どこまでも人を信じ、愚直なほどにがんこな本作の作品世界は、世知辛い現代の世相の合わせ鏡なのかもしれません。この本をもっともっと多くの方が手にとってくださることで、私たちが暮らしている世の中の未来が、1ミリでもよい方向へ動いてくれればと願います。
毎日新聞の評者さんから『朝日のあたる川』へ、こんな素敵な言葉をいただきました。しっかり心に刻みたい言葉です。
たとえ挫折しても、また新しい夢を見つければいい。そうすれば人生を変えることができる。(毎日新聞書評より)