北海道のイトウを考える(その1)

北海道版レッドデータブックで「絶滅危機種」に指定されているイトウ。環境問題が注目されている近年になってその保護が叫ばれているが、かつて北海道では、サケ・マスの稚魚を食い荒らす害魚として、イトウを駆除の対象にしていた時代があった。河川の直線化、道路開発、ダムや堰堤の建設などの開発事業に伴い、イトウの生息環境は年々悪化している。

このイトウについて、北海道は、全道的に4月、5月の繁殖期の釣り自粛を要請する方針を固めた。ゆくゆくは法律による規制も視野に入れた「お願い」であると一部で報じられている。(07/12/06朝日新聞、08/02/22北海道新聞、NorthAngler’s誌3月号)

道は平成13年12月1日施行の「北海道希少野生動植物の保護に関する条例」に基づき、「希少野生動植物指定候補種検討委員会」内に「魚類検討部会」を設置し、今回の「自粛要請」の方針を策定したとのことだ。しかしそこに至るまでに、イトウを愛する市民からの意見の吸い上げが充分になされたかについて、今、全国から疑問の声が上がっている。

(社)北海道スポーツフィッシング協会は、2月23日に札幌で「釣り人のためのイトウ釣り講座」を開催した。この講座には、道内はもとより本州からも約100名の参加者があった。そのことは突然降りかかって来た「イトウ釣り自粛要請」への市民の関心の高さを示している。当日は北海道の担当部局である生活環境部自然環境課主幹の石島力氏が出席し、釣り自粛を要請する文案を会場に配布した。

北海道が「イトウ釣り自粛要請」を打ち出すらしいという情報は、以前より「フライの雑誌」編集部にも入って来ていた。編集部では2月27日、現時点での状況を把握するために、生活環境部自然環境課へ直接電話で取材した。電話口にはイトウ講座へ出席した石島氏が対応してくれた。この電話取材での石島氏の発言を以下に記す。

・お願いであって規制ではない。くれぐれも誤った報道をしないでほしい。
・釣り自粛を発案した「魚類検討部会」は2007年12月26日に開催した。事前の日程公開はしていない。議事録はあるが希少種保護のため公開できない。
・新聞報道は「魚類検討部会」の内容を受けてのことだと思うが、自然環境課から情報の投げ込みはしていない。どこかで嗅ぎ付けたのだろう。(表現はママ)
・3月上旬に自然環境課主催でイトウに関する「意見交換会」を開催する。参加者の公募はしない。
・(意見交換会に参加したいという編集部からの要望に対して)出席メンバーは自然環境課が指定するので参加はお断わりする。希少種保護のためご理解いただきたい。
・イトウ保護の施策について道内各団体とのコンセンサスがとれたら結果をリリースする。そのときはぜひ広報にご協力いただきたい。

私(堀内)はこれまで、各地の様々な行政担当者に取材してきたが、この石島氏は稀に見るフレンドリーさであった。検討部会の非公開にこだわり、報道を「嗅ぎ付けた」と言い、意見交換を断る。そして理解と協力を一方的に求める。希少種保護のために生息地などの研究情報を秘匿するのと、行政施策の討議を市民から秘匿するのとは、まったく意味が違う。なにか大いに勘違いしているのではないだろうか。

アイヌ民族の神話にも登場するイトウは、ほんのこの数十年の間に、人間の勝手な都合で駆除され、生息域を狭められ、その結果、数を減らした。今後イトウを守り育てていくには、幅広い市民の合意と協力が欠かせない。その点で、現在の北海道環境部局の手法は不適切であると言わざるを得ない。北海道は早急に、まず広く一般市民に「意見交換会」への参加を呼びかけるべきである。(「フライの雑誌」編集部/堀内正徳)