日本釣り場論30

「トラウト・フォーラム」への7つの疑問

小誌は長年「トラウト・フォーラム通信」というページをトラウト・フォーラムに提供してきている。そのためか、トラウト・フォーラムについての様々な疑問や質問をいただくことが多い。トラウト・フォーラムって具体的に何をやっているんだろう、会員になったらいいことがあるのか、どうも怖いイメージがある、釣り人の味方の圧力団体なんでしょ、etc。「日本の釣り場をよくしたい、マス釣り人のネットワーク」を標榜しているトラウト・フォーラムが設立されてから13年たった。これまで編集部に寄せられてきた疑問を集約して、トラウト・フォーラム運営の中心になっている方々に、直接ぶつけてみた。(白河フォレストスプリングス内ミーティングスペースにて2003年11月29日収録)

座談会
下田正人(福島県/トラウト・フォーラム代表/会社員/43歳) 
宮田 匠(茨城県/代表部会委員/自営業/47歳)
鈴木良久(福島県/会員/会社員/38歳)
木住野勇(東京都/事務局/自営業/47歳)

進行 堀内正徳(本誌編集部)

■質問1

会員数は何人ですか? 
運営費用はどうなっているんですか?(27歳/都内)

  • 素朴な疑問ですね。事務局から答えていただけますか。

    木住野 現在の会員数は約350人です。最初のスタート時が100人、ピークは950人でした。

  • 事務局の通常業務は?

    木住野 窓口機能です。情報収集から対外的なアウトライン作り、会員管理。どういう方向性の活動を組み立てていくかを一番に考えたいのですが、現実的には資金管理や会員へのフォロー業務に追われることも多いですね。会員はTFという組織を維持するために集まっているんじゃなくて、いい釣り場を作りたいという目的の元に集まっています。だから、組織が大きすぎてうまく動けないんだったら集まっている意味がない。そんな理由である一時期から、意図的に会員を減らしました。まず、一切宣伝をしない。会費を払い忘れている更新会員には、会費の未納案内を一度は送るけれど、それで反応がない場合は、自動的に脱会になってしまう。TFの活動費はすべて会員からの会費と寄付です。会員が500人までなら、組織の維持と会員へのサービス、対外的な発言力の保持が両立できると考えています。

  • 経費の内訳を教えてください。

    木住野 会費が5000円で会員が350人なので、175万円、それに寄付、会員が不要になった釣り具などを集めたオークションを随時開催して、だいたい1年間で集まってくるお金は約250万円です。

  • 事務局の経費は。

    木住野 私の個人的な仕事場を半分事務局として使っています。TFの事務局は、私の生業ではありません。TFの代表部会委員は全員同じですが、自分の仕事をして生活費を稼いだうえで業務を引き受けています。水道光熱費消耗品すべて含めて、TFから月5万円をいただいています。それ以上かかっても請求していません。採算を考えたらTFの事務局仕事はやっていられません。

■質問2

TFは自然保護団体なの?(38歳/山梨)

  • これは下田さんに答えていただけますか?

    下田 自然保護にもいろいろな考えがあります。自然を手つかずのまま保護しようという活動だけを指すのであれば、TFは違います。釣り人がいい釣りをしようと思ったとき、釣り場の状態をよくしようと思ったとき、整備しなければならないのは、自然環境だけではありません。いつでも魚が釣れる環境、魚が殖えていける環境があることは大前提ですが、釣りと釣り場を取り巻く様々な制度がうまくかみ合っていないといい釣り場はできません。そのための制度を改革して行くこともTFの活動です。美しい景観を保全することも大切ですが、その場所がだれもが活用できる生きているフィールドであることが重要です。一口に自然保護と言っても、自然を見守っているだけなのか、積極的にそこへ手を入れていこうとしているのかでは全然違います。

  • 川や魚に釣り人として積極的にコミットしていこうと。

    下田 原始のままの姿を残している場所も、わずかにはあるでしょうが、多くの釣り人がフィールドとしているそれ以外の大部分の河川では、何らかの形で手を入れないといい釣りができないのが日本の現状だと思います。

    宮田 10人いたら10通りの意見があります。TFの考え方はそうだというだけです。

  • 釣り人以外にTFの趣旨は通じますか。

    宮田 理解はすると思うけど、一歩下がると何だお前ら釣りをしたいだけじゃないかということになるかもしれない。

    下田 自然(風景)を見ているだけでは気がつかなかった異変に、釣りという行為をを通して初めて気がつくことは多くあります。

    木住野 いまの日本の大部分の釣り場は、誰かが魚を放流したから、そこに魚がいる。そのことを多くの一般の人は知らない。本来はその川で生まれて育った魚がいるのがごく自然の姿だけど、今は釣るための魚をわざわざ放して、さあ釣ってくれとなっている。それだけじゃないでしょ、というのが私たちのいまのスタンスです。

  • TFの活動テーマに「再生産できる川を作る」とあります。

    木住野 決して再生産がすべてではありません。私たちは生活をしていくエネルギーとして、釣りという趣味を非常に大切に思っています。コンクリートの箱でも魚がたくさんいればいいという釣り人もいれば、できるだけきれいな自然の中で美しい魚を釣りたいという人もいる。色々なニーズがあって当たり前だけれど、そのためには色々な釣り場がなくては楽しめない。そのためになにを今やっておかなければいけないだろうか、ということです。

    下田 「釣り人として」と言うけれど釣り人は一種類じゃない。すごく幅がある。

    鈴木 今の渓流はほとんどが放流モノですよね。放流モノは釣っていて分かりますよ。できれば天然の魚が釣りたい。放流しなくても再生産している魚が釣れる釣り場が欲しいですよ。最初は放流モノでも、そこで生まれて育った魚を釣りたい。

    木住野 「そこに生活がある魚」を釣りたい。

    下田 基本的には、ネイティブが残っている川をわざわワイルドに変える必要はない。そういうところに手を入れるつもりはありません。遺伝子なんて考え方がなかった時代に放流されて、ネイティブがすでにいない川においては、うまく利用することを考えて良いんじゃないかと思います。

    宮田 漁協の経済的な都合であちこちから種苗を仕入れて放流している川が多いわけでしょ。ヤマメ圏にアマゴを入れたり、栃木に岩手の魚を放流したり、もうぐちゃぐちゃですよ。そういう川では、そこにあるのが本当にあるがままの自然なのかどうか、誰にも分からなくなってる。

    木住野 全体的な流れとして、今の日本の釣り場は多様性が損なわれる方向になってきています。つまり、どんどん種苗(成魚や稚魚)を放流してそれで釣れれば良いんだろう、という考え方です。でもいくら釣れたとしても、そういう種苗放流の釣り場だけじゃ気分がよくないのではないか、と。全部の釣り場が放流釣り場じゃ困るし、すべて再生産の釣り場にしなくてはダメだというわけでもない。TFがこれまでやってきた経験の中で、現在は、再生産できる釣り場の確保が必要な時期だろう、そのために人工産卵場や卵放流、キャッチ・アンド・リリース、持ち帰り制限(バッグ・リミット)などの方策はどうかと模索している段階です。やってみないと分からない。

    鈴木 アユはマス類に比べたら、再生産しやすい。だから再生産しづらいマス類に関してはアユよりも再生産を手助けしてやることが必要なのかと思います。

    下田 整理すると、TFは自然保護を主目的とする団体ではありませんので、「自然保護団体」という立場ではない。ただし、様々な活動の過程で環境の保全に携わることはある。例えば、十分な調査の上で原種と見られる固体の繁殖が確認された流域に対して交配の恐れのある種の放流等をさせないとか、禁漁や立ち入り禁止にする等の働きかけをすることは、環境を保全する活動です。人工産卵場の造成は自然の川床に手を入れることですから、これを環境破壊だと言う人もいるかも知れません。しかし、結果的には自然産卵による在来魚の増殖で、在来魚の住む環境が保全されます。

■質問3

TFはキャッチ・アンド・リリースに賛成なのか、
反対なのか。(55歳/東京)

  • TFは発足当初からキャッチ・アンド・リリースを活動の旗印にしていましたが、いまはそれを引っ込めています。なぜですか。

    木住野 TFがキャッチ・アンド・リリースを提唱し始めたころは、実績も経験もなにもなかった。未知の世界です。未知の世界では極論が分かりやすい。持ち帰り放題の中に、「持ち帰りゼロ」を持ち込んだらどうだろうか、それが当時の発想です。キャッチ・アンド・リリースの釣り場にも色々な問題が出てきています。いまの日本の川は釣り人の川じゃなくて漁協の川ですから、どうしても漁協の採算ベースに乗らざるを得なくて、結果、「キャッチ・アンド・リリース区間」という釣り堀を漁協のために作る、というようなねじれた現象が起きてもいます。

    宮田 現在は、全国に数多くの「キャッチ・アンド・リリース区間」ができた。できることが分かった。つまり、釣り人側から何かを積極的に働きかけることで、現状を変えることができることが分かったということです。これからはそれをどう次の段階につなげるかが大切です。

    下田 私たちは、キャッチ・アンド・リリースをフランチャイズとして全国に展開する運動をしているわけではないです。そもそもキャッチ・アンド・リリースというのは釣り場管理の一つの方法に過ぎません。それですべてが解決する訳ではないし、逆にフィットしない場合もあります。

    木住野 釣り堀的なキャッチ・アンド・リリースの釣り場は、それはそれで必要だと思う。否定できない。だっていままであまりにも釣れる場所がなかったんだから。釣り人がキャッチ・アンド・リリースを言わないとそこに魚がいない状況というのが、ある意味で日本の内水面の現状を象徴しているんです。「私たちは持ち帰らないようにしてガマンするから、どうかここに魚を泳がせてください」と釣り人が川を管理している漁協なり行政なりにお願いしているわけでしょ。これはヘンなんだ、ということを釣り人が自覚するべきですよ。

    下田 それは強烈にその通りですね。

    木住野 私たちは初めにキャッチ・アンド・リリースを提案することによって、釣り場を運営する権利を持っている漁協や漁業権を管理している行政から、もっと様々な釣り場管理方法が提案されることを期待していた。だけど実際はキャッチ・アンド・リリース区間だけが増え続けて、いまは50カ所以上ある。キャッチ・アンド・リリース区間が50あるとしたら、100カ所の持ち帰り制限の釣り場ができているくらいでないと、バランス的にはおかしいんです。「持ち帰ってもいいけど自分は持って帰らない」釣り場と「一切持って帰っちゃダメ」な釣り場と、どちらが自由な釣りが楽しめるか。

    下田 漁協という組織は本来、漁協組合員たちのためにある組織です。釣り人のためにあるのではない。

    木住野 公共の川は、釣り人も含めた国民の共有財産のはずなんですけれども。

    宮田 同じ「キャッチ・アンド・リリース区間」をやっていても、利益が上がっている漁協と上がっていない漁協があるのも事実です。日本には川が3万本あると言われています。これから先、釣り場作りの方法はいくらでもあると思いますね。

  • 一つの方向性だけで進むんじゃなくて、あれこれ考えて試すべきだと。

    木住野 日本には釣り場の問題を全国規模でトータルで考えてプロデュースする人や行政部署がない。だから、自分の考えを持っている人が集まって、自分たちができる範囲でやっていこうじゃないか、それがTFでもあるわけです。

■質問4

釣り場作りのために、なにをすればいいのか分からない。(33歳/北海道)

  • 釣り場作りの活動をしたいのだけれど、具体的に何から始めればいいんだろう、という質問だと思います。

    宮田 まったくの個人で一から 「活動」しようといっても、それはきびしいでしょうね。TFだってここまで来るのに10数年かかった。

    木住野 一番先に何かやろうと思ったとき、大抵はゴミ拾いからスタートします。だけどゴミ拾いのその先へ行くのがなかなか難しい。そういうときに、例えば人工産卵場を扱ったTFのビデオを地域の漁協なり行政なりに持っていってもらう。そこから何か新しい展開があるかもしれない。

    下田 栃木の例で言えば、人工産卵場を作って魚に産卵させる、そこまでは個人でもできる活動です。その、産卵場造成と産卵の様子をビデオに撮影して全国へ配り、影響を広げていくのがネットワークとしてのトラウト・フォーラムの活動だということができる。

    木住野 会員になってくれれば、全国から集まっている釣り場作り事例の情報を提供します。その中から適したケースを自分の地域の川で試してもらって、それをまた事務局にフィードバックしてもらう。そうすればどんどん輪が広がります。漁協へ行って話をすることまでは誰でもできます。だけどそこから先、どこへどうつなげていくか個人では分からないという時に、TFのネットワークを役立ててほしい。

  • 時間がなくて自分では動けないけれど、という方は。

    宮田 自分では具体的な活動ができなくても、もちろん会費を払うだけでも重要なバックアップですよ。

    木住野 会費を払ったからと言って、直接的に自分のメリットになることはまずないと思います。ただこれまでTFが関わってきた「毛バリ釣り禁止への対応」なり「人工産卵場」なり「キャッチ・アンド・リリース」といった、釣り場作りのための新しい試みは、たくさんの会員が支援してきてくれたからこそ、登場し実現してきたわけです。

    宮田 そういえば今では当たり前になったコンビニでの遊魚券販売も、ずいぶん働きかけをしましたね。

    鈴木 今いる会員はこれまでのTFの方向性に賛同しているから会費を払っている。私もそう。5000円の会費を払えば、ひょっとしたら近い将来に釣り場が変わるかもしれない。そういう期待がある。

    下田 1本のビデオを制作するには、内容の企画から始まって、取材対象となる現場や出演を依頼する人との調整、協力していただく行政や漁協、研究機関等との打ち合わせ、そして実際の撮影、編集作業を経て大体1~2年の制作期間がかかります。それはTF全体として取り組まなければできないことです。

■質問5

そもそもトラウト・フォーラムは、どんな人たちが作ったんですか?(52歳/埼玉)

  • TFの「設立趣意書」(1990年)に書いてある発起人リストを見ると(『フライの雑誌』第13号掲載)、そうそうたるメンバーが名を連ねていますね。参加している人々の層がとても横断的です。

    木住野 「流派」を越えて集まった印象がある。ここに名前がある人でいまでも会員の人は少ないですが。

    宮田 亡くなってしまった方も何人かいらっしゃいますね。

    鈴木 ×○さんは会員ですか?(調べる)フライフィッシングを商売にしている人が、最初だけ入って後は知らんぷりというのは、自分としてはちょっと残念ですね。×○さんには入っていて欲しかったなあ。

    木住野 私はTFの会員でなくてもいいと思うんですよ。TFとは別の考え方もあって当然です。TFでなくても、釣り場のために他で動いていればいい。ただ、残念ながらそういう話があまり聞こえてこない。思い起こすと、発足当初はとにかく会議が多かった。ひと月に2回も代表部会をやっていた時期もありました。

  • ちなみに私も会員ですが、私は当時TFが発行する印刷物の手配を受け持っていたんです。で、印刷費が高いと言われて「誰かのポンポンに入っちゃうんじゃないの」と某氏にげすの勘ぐりを受けたことがあります。某氏は発起人の一人でもあるけどもう会員ではないらしい(笑)。

    木住野 代表部会を新宿でやるようになったころは、発起人はもう半分くらいしかいませんでした。広報だとか事業部長だとか、色々肩書きも決まっていた。今考えるとおかしいけれどね。

    宮田 会社をやろうとしていたんですよ。だけどそういうやり方は間違いだった。

    木住野 釣りの「業界人」ではない人たちがTFを実際に運営するようになって、業界の人たちが一気に減りました。いまの代表部会委員には釣りでゴハンを食べている人は一人もいません。これからの日本の釣り場作りを考えると、漁業制度を変革する運動や、分かりづらい規則を分かりやすくしようだとか、やれることはいくらでもある。発起人の方々はそれぞれの得意分野で動いてくださっているんじゃないでしょうか。

■質問6

釣り具業界からの資金のサポートはあるんですか?(36歳/都内)

木住野 いくつかの釣り具メーカーから数十万~数百万単位の寄付をしたいという申し出を受けたことは何度かありますが、実際に寄付していただいたことはないですね。

宮田 べつにお断りしたわけじゃないんだけど(笑)。

木住野 まあ、こちらから積極的に寄付をお願いすることもしていません。

下田 全国の多くのプロショップや管理釣り場などには、会費を払って会員になって頂いています。

■質問7

TFはNPO法人をとるそうですが、NPO法人になるとなにがどう変わるんですか?(38歳/山形)

下田 活動の進め方は変わりません。ただ法人格がつくことには大きな意味があります。

木住野 今後、釣り場制度の問題についてメスを入れていく折衝を行政と続けていく際に、NPO法人であることは大きなメリットになると思います。今のまま任意団体でいくよりもずっと影響力が大きい。

  • デメリットは。

    木住野 決算申告や事業報告など事務局の労力が増大します。でもこれから先を見越したときに、法人格の取得は欠かせないという判断です。昨年の12月に東京都へ申請しているので早ければ2月下旬には認可される予定です。

    下田 ここ数年、折衝している中央省庁からはTFは任意団体ではないように思われている雰囲気があるんだけれど、じつはまだ任意団体だった(笑)。外部から見たとき、TFの存在意義や影響力は、私たちが考えている以上に大きくなっていますよ。その手応えがあります。

  • 今後の具体的な活動予定を教えてください。

    下田 とりあえず今は法人化の準備で手一杯ですが、4月以降はNPO法人トラウトフォーラムがスタートします。今日申し上げました様にそれで何かが変わる訳ではありませんが、これまでの活動で見えてきたこと、見え始めていること、やらなければならないことは山ほどあります。そこに川が流れて、魚がいて、釣りができるということ。キャッチ・アンド・リリースの先に、人工産卵場の先にあるものをさらに確立していくこと。今年度の具体的な活動予定としては、これはある漁協との共同の作業になりますが、ダム等の遡上障害物によって産卵遡上が出来ない流域において、恒常的に在来魚を供給するための「人工的な種沢」を作る試みを始めます。また、この内容も含めて新たなビデオもリリースしたいと思っています。