実写版『釣りキチ三平』の洗礼を受けた私は、もうたいていのちんけなCGや、原作マンガを愚弄する改ざんには、びくともしないはずだった。
ところがどっこい、実写版『カムイ外伝』を昨日観に行ったのだ。
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期待値が高くなりすぎていたのもある。白土先生が「松山クンのカムイは本物だ」などと目尻を下げてPRに出まくっているものだから、正直騙された。白土先生ともあろう方が、と今は思う。
松山クンはきれいだったが、口を開くとまったくダメ。台詞を言った後に口角をあげるのは大根役者の証明だ。小雪にしたって、あんなに首の長い女抜忍はいない。原作どおりなら、小雪は男どもに犯されなければいけないのだが、なにもなかった。だからスガルの哀しさが伝わってこない。撮影当初、スガル役に起用された女優は菊地凛子だったという。菊地凛子がケガで降板していなかったら、スガルの強姦シーンはあったのか。ひどい目に遭うのは娘のサヤカでもよかったんだが、それもなかった。
渡衆が登場して村人に迎えられ、共に祭りのひとときを愉しむ。宴の場で一人の抜忍が暗黒舞踏のできそこないみたいな踊りを長々と披露する。あそこはひょっとしたらクロサワのものすごく不出来なオマージュなのかもしれない。だったら北野武のタップダンスのほうがまだましである。
CGで描かれたサメの安っぽさは、何度も引き合いに出して恐縮ですが、実写版『釣りキチ三平』のFRP製の大イワナとどっちもどっち。きわめて低レベルな争いを繰り広げている。そもそも水中の魚を空中に引きずり出して動かそうということじたいが、無理な相談だ。ほんとムリだから。釣りをやっていない人にはそれが分からない。
この映画の悲惨のひとつは脚本にある。脚本家と監督の名前で飛びついたら、粗悪なコピーブランド品を掴まされて歯がみする思いだ。プロレタリア思想が一切表現できていないのは、カムイの実写版として致命的だ。
映画のなかほど、渡衆が登場するあたりで、ストーリーの展開があきらかに滞る。すると隣の席で連れの5歳児が、「パパ、これ長い!」と憤怒の表情を見せた。ほぼ同尺の『釣りキチ三平』ではみじろぎせずに最後まで観ていたので、『カムイ外伝』には彼のこころを揺さぶる何かがあったのだろう。それはそれですごいことだ。
何年という月日と何十億というお金と何千人という人手をかけ、白土三平先生が激賞して自ら宣伝した作品がこれかと思うとせつない。土屋アンナの哄笑はよかった。
先週DVDで観た『カンフーパンダ』が、いかによくできたエンタテイメント作品だったかが、よくわかりました。