映画『釣りキチ三平』を初日に観た。その感想。

私は漫画『釣りキチ三平』のファンである。今回の映画化では、原作からの改変がはなはだしい。魚紳さんがいきなりアユ釣りで登場してきたり、三平の父が沖縄の海で行方不明になっていたり、夜泣き谷に炭焼き銀次がいなかったり。きわめつけは、愛子姉ちゃんが東京へ行っている三平の実姉だという、原作をまるで無視した大ウソ。愛子姉ちゃんマニアは「その時点で映画化だめでしょ」と声をそろえるだろう。

私は映画の新しいコンセプトや現場でのたいへんな苦労話、関係者の皆さんが映画『釣りキチ三平』にかけてきた熱い情熱を取材し、『フライの雑誌』84号で記事にした。下準備をしてシンパシーをもったうえで完成した映画を観た。正直に言おう。これは漫画『釣りキチ三平』の実写化ではない。〝あの伝説のコミックを実写映画化〟という映画会社の宣伝文句は不当であると思う。

ただそれでも映画『釣りキチ三平』は観てよかったし人様にも大いにすすめたい。ことに小さな子どもをもつ家族なら観終わるといっしょに釣りへ行きたくなる。そして真夏の渓流の谷しぶきを頭からかぶりたくなる。物語の基本線が家族の絆の大切さにおかれているので、日ごろは放置している子どもへヤクザな親が思い出したように「家族って大事だろ、な。」と、アピールするのにもいい。気になる釣りシーンのクオリティもあれなら世間様へ胸を張れる。一般雑誌には載らない釣り人向けの制作裏話は『フライの雑誌』84号に載せてあります。

話題になっている魚のVFXは、私はあえて辛口に評価したい。世界最高峰の技術とスタッフのなみなみならぬ努力をもってしても、天然自然の素晴らしさはぜったいに凌駕できない。今回そのことが分かってむしろホッとした。どこまでが人間の限界なのか、それを知りたい方は映画を観てください。映画『釣りキチ三平』を観て釣りを始めた人は、川や湖で実際の魚を釣って、そのたとえようもない美しさに驚き心をうばわれるだろう。申し訳ないがそれでいいと思う。

付記。全篇が愛子姉ちゃん役の香椎由宇さんのPVのようでもある。ひと目見て私は好きになってしまった。美人にはかんたんに転ぶのだ。あとユリッペ萌え。