「いない魚は釣れません」、そりゃそうだ。

2004年の第64号で「すぐそこの海へ!」という特集を組んだとき、「こんなの『フライの雑誌』じゃない」とか、「もう置くのヤメた」とか、「『フライの雑誌』終わったな」とか、フライフィッシングの業界筋の方からの評判はけちょんけちょんだった。第64号は不肖わたくしが実質的に編集人を務めた最初の号だったのでそれなりにこたえた。「フライフィッシングはやっぱりマス釣りですからね」みたいなことを、したり顔した業界関係のえらいおじさんに言われたのだが、「はい、そうですね」と表向きはひれふしつつ、なに言ってるんだい、日本でだって海外でだってもう30年も前からフライフィッシングの裾野はマス類の枠を飛び出ているじゃないか、マスだって海だってバスだってオイカワだって面白いぜ、と心の中で反論したことを覚えている。でも一方で、第64号を手にとってくれた読者からの声はおおむねあたたかくて、「まあマスでも海でも、色々やってみなはれ」なノリを感じたから、ギョーカイに嫌われようが読者が楽しんでくれればそれでいいんだ、と勝手な思い込みを強くした。結局、第64号はあっというまに品切れになり、後の単行本『海フライの本』、『海フライの本2』への企画へとつながっていった。そしておかげさまで『海フライの本』、『海フライの本2』ともすぐに売り切れた。『海フライの本2』は完全電子版とiPhoneアプリ版で販売を続けている。
第64号から約10年たった今も、渓流シーズンが終わるとこうしてわたしは時々思い出したようにフライロッドを持って伊豆や千葉の海へのこのこ出かけていくのだが、そんな気まぐれな釣り人を〝ようこそ!〟と出迎えてくれる気のいい魚がそうそういるはずもない。「いない魚は釣れません」。これは第64号の取材で鹿児島へ伺ったとき、坊津(ぼうのつ)のシンと静まりかえった魚っけのまったくない美しい海を前にして、過去30年間毎日海でフライを投げ続けている夢やの中馬(ちゅうまん)達雄さんがぼそっとつぶやいた名言だ。『フライの雑誌』のシングル号台の頃の連載記事で、目の眩むような海フライの釣果をさらさらと紹介していた中馬さんでも、いない魚は釣れません。そりゃそうだよな。いない魚は釣れません。うん、そりゃそうだ。今日は中馬さんのその名言をまたまた深く噛みしめた日だった。魚全然いないね。しかも暴風雨だって。あはは。これも釣りだ。これが釣りさ。川なら魚は石裏だの淵底だの瀬脇だののどこかにいるものだが、海は広いから魚はドイツへ行っちゃう。(堀内)
『フライの雑誌』64号【品切れ】
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海フライの本 はじめての海のフライフィッシング 国内初の「海フライ」単行本!|『フライの雑誌』編集部編(2007年)
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国内初の「海フライ」単行本!|『フライの雑誌』編集部編(2007年)【品切れ】
海フライの本2 -はじめての海フライタイイング&パターンBOOK 完全電子版 (牧浩之著)
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海 -umi- Saltwater Fly Fishing  iPhone/iPadアプリ
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葛西善蔵と釣りがしたい|堀内正徳
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