「いま蓼科なんですよ〜。」

『フライの雑誌』次号第83号の編集が佳境である。締め切りを過ぎて届いた原稿で内容を確認しなくてはいけないことがあり、寄稿者さんの携帯に電話したら「いま蓼科なんですよ〜。」と言われた。

「自分はドライだからいまいちだけど、沈めている人はけっこう釣れていますよ。いい魚ですねえ。」とのこと。釣り場まで追いかけるほどこっちも無粋じゃないので、「おじゃましました〜。」と言って早々に電話を切ったが、なんか釈然としない。いい魚、私も釣りたい。

じつは次号の記事のなかで、いちばんの大物がまだほぼ手つかず状態で残っている。もう半月以上も頭の中で発酵させている。とっくにアブクを立てているのだが、大物すぎて正直カタチにしていくのがこわいのである。

イブニングの遅い時間に、明らかにトロフィー級のライズに巡りあったとする。キャスト一発で決めないと即沈むのは必定だ。日暮れは迫る。さあ何を結ぶ、どう投げる、どう流す、どうハリに引っ掛けてやろう。

私のような者でも編集仕事のなかで、ときどきこういう局面を経験してきた。こういうときは、ぎりぎりまで間合いを詰めて、渾身の居合い抜きでばっさり斬るしかない。果たして斬れるのか。それとも返り討ちか?