出版物を作るには著者校正という作業が欠かせない。他の出版社さんではもうずっと前からpdfでの校正が一般化しているようだ。その方があらゆる意味で好都合なのは以前から承知してはいた。しかし「フライの雑誌」の編集には、pdf校正はこれまで導入していなかった。
だって世の中、便利ならなんでもでいいってもんじゃないでしょう。とくに私どものようにマニアな雑誌の編集では、ゲラを封筒に入れて切手を貼ってポストに入れて無事届きますようにと手を合わせて相手に届く頃をみはからって電話して、といった煩雑な作業からにじみ出てくる深みみたいなものこそが、大切なんじゃなかろうか。便利さや経済性だけが選択の基準なら、おれだってもっと要領のいい人生を歩いていらぁと、今思えば個人的なルサンチマンも多少混ざっていたのかもしれない。
100万人行けども我行かず。昔気質のがんこな職人風にこの先もかたくなに意志を貫こうと思っていたが、今号からあっけなく方針転換。校正はPDFでやりとりすることにしました。「フライの雑誌」第81号の進行は5月連休にかかるため、色々と前倒しに進めなくてはならない。なのに小誌の寄稿者さんのほとんどはプロフェッショナルな物書きではないために、そういう編集側の事情にはまったく関心がなく、いつも以上に締め切りを平気で無視してくる。ああもう、pdfでもなんでも使うぞ。魂くらい売ってやる。
実際にpdfで校正をやってみると、やっぱりめちゃくちゃ便利だ。時間のロスはないし鮮明だし、とくに海外とのやり取りでは通信費が節約できるので、ありがたいことばかり。小誌の寄稿者さんは一般人に比べればIT難民率が高いだろうと勝手に思い込んでいたが、これが意外にそうではなくて、この人pdfとか言ったって絶対はてなマークだろうなあ、という寄稿者さんに、おそるおそる「あのう、pdfってご存知ですか。校正はpdfでもいいですか?」と尋ねたら「pdf? もちろん!」と元気いい答えが返って来てびっくりした。これまでのやり方へのこだわりは私の独り相撲だったということか。なあんだ。
面白かったのが、「フライの雑誌」にニュージーランド×日本の比較文化考「キウイの島で」を連載中のニュージー在住、キョーコさん。彼女は大学院で社会学の研究をされている。この方に連絡をとろうと思うと、大学宛の電子メールではなかなかきびしい。メール自体が大学に届かないか、届いても本人が見ていないことが多い。しかもパソコンが日本語環境に対応しておらず英語限定。電話してもほとんどご自宅にいないし、留守番電話もファクスもスイッチを切っていることが多いから(切らないで!)、一番確実な連絡方法はエアメールということになる。いまどきすごい方なのだ。
今回そのキョーコさんに半分あきらめつつ、レイアウト原稿のpdfを試しに電子メールで送ってみたところ、なんと3日後に返事が返って来て(早い)「Yes, the article is okay to go. 」とのこと。すごいすごい。ところが続けておっしゃるには、「タイトルを変更したいから3日間待って。明日からホリデーなので旅行に行きます。」とのこと。うわあ、意味ない。キョーコさんたら身も心もキウイ化したみたいだ。