『フライの雑誌』次号の連載記事に載せる写真の撮影のために、カブラー斉藤氏と埼玉県蕨市のフライショップで待ち合わせた。「午後4時ね。」「わかった。」と、数日前に会話していたのだが、カブラーとのそんな約束を信じる私ではない。何年つき合ってると思ってるんだ。
当日の午後1時と午後3時に、カブラーへ電話をかけたが、もちろん出ない。寝ているのだろう。仕方なしに私は先に事務所を出てしまい、赤羽駅へ着いた時点でもう一回電話した。「…はい。」やっと電話に出た。「家でしょ。」「ごめん。」この時点ですでに午後4時15分前。やはりこうなるか。
「暗くなったら写真撮れないじゃん、どうすんの。」「今すぐ出ます。…」。いかにカブラーといえど、こういう明らかに自分のミスのときは、それなりに殊勝になるのでちょっと可愛い。でも約束は守ろうよ。結局、カブラーは1時間遅れでやって来た。早いじゃん。撮影は手早くすませてしまい、カブラーと私と蕨の社長と三人で、最近の釣りの話などを楽しんだ。
蕨の社長は相変わらず格好がいい。ルックス的に優れているというのではなく(あえて否定しなくてもいいのに)、人格として一本スジが通っている。先日、毎日新聞のフライフィッシング入門の記事に協力した旨を私がぽろっと言ったら、「そういうことをしてくれては困るんですよね。」と言い切った。社長いわく「誰でもできるフライフィッシングじゃだめなんです。人がやっていないからこそフライフィッシングなんです。」とのこと。
多くのフライマンが知るように、蕨は特異な店であるとはいえ、小売店には違いない。商売的にはフライ人口は増えた方がいいに決まっている。しかし日本最初のフライ専門店を立ち上げた歴史上の人物に、「人は少ない方がいい。」と、ニコリともせずに断言されると、なんともいえぬ迫力があった。私は、まったくその通りです、と頭を垂れた。店を出た後、カブラーが「やっぱオヤジいいなあ。」と嘆息するようにつぶやいた。
店を出た後はカブラーを誘って、蕨駅前の「福しん」で、本当においしくないつけ麺。カブラーは炒飯。ドトールに移動して、私はブレンド。カブラーはアイスオレ。編集部に戻って来たのは午後11時を過ぎていた。
追記:もう2年近く滞ったままの単行本用原稿について、カブラーにきつく問いただしたところ、「もうすぐできます。」とのこと。ぜったいウソだと思う。