「昨日は6キロ出ましたぁ」

おかげさまで『フライの雑誌』次号第88号が手離れになった。渓流の本格解禁まではまだ半月ある。私はいま、隙あらばワカサギを釣りたい精神状態にある。覚えたての猿のようなものだ。

先週土曜日の夜、たまたまいつもの「湖波」さんへ電話して様子をうかがったところ、

「昨日は6キロ出ましたぁ」

とのことだった。6キロ? それどこの星の話ですか。うちらは前回●匹だったんです。数釣りの代表格のワカサギ釣りで●匹ですよ。涙も出ない。

毎度のことながら色よい情報を聞いてしまっては、もういてもたってもいられない。急きょ翌朝の河口湖行きを決定した。私は用事があったため、5歳児を名代として近所の上州屋さんへ仕掛けとエサを買いに走らせた。便利だ。この5歳児は初めてのお使いがアカムシだった。便利だが、将来が思いやられる。

それにしても、暗い内からごそごそ支度して、ご近所の迷惑にならないように声を殺して車に乗り込んで、そうっと出発するのは、どうも〝夜逃げ〟しているような感じで困る。しかもそれを毎週繰り返しているのだからご近所には、あそこんちはまた夜逃げか、と思われているかもしれない。凍りついた車のウインドウの霜を落とすのもだいぶ上手になった。

夜明け前の中央道を走りながらつくづく思った。去年の秋からずっと身も心も河口湖のワカサギに捧げつくしている。いいかげん大爆発してくれてもいいじゃないか。頼むよ河口湖。

小市民のそんなささやかな期待は今までことごとくあっさりと裏切られてきた。しかしでも、今回ばかりはなにしろ「6キロ」情報を握っている。今度こそ間違いないに決まっている。苦労が報われるその時は来た。それだけだ。

早朝、浅川ワンドの「湖波」に着くと、いつもの兄さんがニコニコと迎えてくれた。この笑顔を見るだけで満足する。釣れなくてもいいや。・・・いやいや何を言っているのだ。釣る前に釣れないことを考えるばかいるかよ(@猪木の名言)。今日こそはかわいい河口湖のワカサギをいやと言うほど大量に釣って帰るのだ。いざ出航だ!

そして結果は。

河口湖のワカサギは巨大だ