『外来種は本当に悪者か?』(草思社)を読みながら思いついたことのメモ その2

『外来種は本当に悪者か?』 Why Invasive Species Will Be Nature’s Salvation/Fred Pearce (草思社)を読みながら。

> 『外来種は本当に悪者か?』(草思社)を読みながら思いついたことのメモ その1

生き物を選別して、体を引きちぎり、その場に棄てる教育を受けた子どもが、いのちの大切さを知るはずがない。小池百合子時代の特定外来生物法ごり押しから12年。「外来種がいなくなれば世の中は平和になる」とか言い出すのがそろそろ出てきそう。

ヨーロッパ最大の荒廃地といえば、ウクライナのチェルノブイリだろう。‥強い放射線の影響で、寿命が短くなる生き物もいると思われるが、総じて自然は順調にやっている。‥野生動物の立場からすれば、あの事故は有益なものでした。人間が一掃されたのですから。
286頁

福島第一原発周辺の土地を想起する。まったく人間という生き物は、地球へ悪いことばかりしているくせに、二言目にはすぐ「自然保護」だとか言う。何様だと思ってるんだ、えらそうに。

絶滅で生き物が消えると、新しい生き物が入ってくる余地が生まれる。環境をうまく利用できるものは、しっかり侵入して定着するだろう。環境保護主義者が最も恐れる外来種こそ、自然に最も必要な存在なのだ。
294頁

この本から、ここの記述だけ抜き出せば、そりゃ物議かもしまくりだろう。(^_^)a

外来種自身が、新しい環境に適応する過程で進化することもよくある。‥ワシントン州のベニザケは別の湖に導入されると、たった56年、13世代で新種になった。自然はぐずぐずしていないのだ。
298頁

これちょっと気になる。ベニザケが進化した新種ってなに。サイエンス誌掲載(2000)とのこと。

人間の脅威で打ちのめされても、自然はしぶとくよみがえる。気候変動も含めて、人間の活動やその結果が引き金となって進化爆発が起こり、それまでの絶滅分を補って余りある種が地球上に出現するのではないか。トマスがそう考えるようになった背景には、外来種の存在があった。
294頁

このあたりからグイグイ来る。本書のタイトルも含め、ここで言っている「外来種」は原文ではおそらく「invasive species」で、日本会議な小池百合子あたりが考えもなしに使っている日本語の「外来種」とは、だいぶニュアンスがちがう。その分を割り引いて読み進める必要はある。

在来種と外来種が変化の激しい状況に対応するうちに、遺伝子が混ざりはじめて雑種や新種が出現した例はすでにある。‥交雑は在来種の繁栄を助けていることが多い‥これこそがダーウィンの言う適者生存だとトマスは主張する。
299頁

日本のメダカ屋さんやサル屋さんがムキィ!ってなりそうな文章である。

生物多様性を守るには、人間の影響から遠ざけるのがいちばんだというこれまでの観念は通用しなくなっている。いまや人間も、人間の影響も地球の隅々にまで行きわたっているからだ。自然保護の指針となる新しいパラダイムが求められている
300頁

人間が自然を守るなんてのは、噴飯ものの思い上がりですよ。せいぜい「ジュラシック・パーク」作るくらいが関の山。そしてあとで恐竜逃げだすと。

非在来という理由だけで撲滅しようとする保護戦略は、変化の激しい世界でも立派にやっていける生物集合体を傷つけてきたかもしれない。
301頁

もちろんどこの局所的生態系にも、本書のような考え方が適応されるとは、まったく思わない。でも「皇居のお濠の生態系を外来種から守れ」とか、「公園の池を本来の自然に戻すべき」とかで、そっち系の学者と役所とマスコミが大騒ぎして税金使ってる日本の情況は、明らかに見当違いだ。考え直した方がいい。

小池百合子がごり押しした悪評高い特定外来生物法は、明治維新時にその生き物が日本にいたかいないかで、在来種か外来種の境を決めている。まったく何の科学的根拠もないし、いかにも島国根性剥きだしで、狭量というかセコい。差別主義的で、エラそうである。流行りの言い方をするなら、「自然に政治を持ち込むな。」でもある。

なるほど日本では外来種排斥と極右が喜んでくっつくわけだ。

おや、小池百合子そのものじゃないか。(~_~;)

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『外来種は本当に悪者か?』は、ただの釣り好きの科学ど素人にもえらく面白く読める。なぜか知らないけど、今すっごく売れてる。Amazonでジャンル別のベストセラーだ。

こういう社会展開になってくると、『フライの雑誌』の次号109号の巻頭に、〈発言! 最近の[外来生物行政]にもの申す〉という、かなり長めでおカタいオピニオン記事を思いきって掲載したのは、とてもグッドタイミングで、意味があった。この〈発言!〉も多くの人に読んで欲しい。

また、自然と人間との関わりについて、この本の著者が語っているのと同様の趣旨を水口憲哉氏は、すでに20数年前の小誌連載「釣り場時評」で多方向から指摘している。単行本『魔魚狩り』に収録している。併せて読んで欲しい。

『外来種は本当に悪者か?: 新しい野生 THE NEW WILD』 フレッド・ピアス (著), 藤井留美 (翻訳)
『外来種は本当に悪者か?: 新しい野生 THE NEW WILD』
フレッド・ピアス (著), 藤井留美 (翻訳)
フライの雑誌-第109号|発言! 最近の[外来生物行政]にもの申す
フライの雑誌-第109号|発言! 最近の[外来生物行政]にもの申す

魔魚狩り ブラックバスはなぜ殺されるのか 水口憲哉(著)|ブラックバスは、濡れ衣だ! 異色のベストセラー
魔魚狩り ブラックバスはなぜ殺されるのか 水口憲哉(著)|ブラックバスは、濡れ衣だ! 異色のベストセラー
『淡水魚の放射能 川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』(水口憲哉=著/フライの雑誌社刊)
『淡水魚の放射能 川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』(水口憲哉=著/フライの雑誌社刊)

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