【特別公開】猟師って儲かるの?|『山と河が僕の仕事場』(牧浩之)

※おかげさまで初版売り切れで増刷しました。2月末には続篇「山と河が僕の仕事場2|みんなを笑顔にする仕事」がでます。よろしくお願いします。
(編集部)

川崎生まれの都会っ子が、妻の実家の宮崎県高原町へ、Iターン移住。いつのまにか「釣りと狩りを仕事にする人」になっていた。──

単行本『山と河が僕の仕事場|頼りない職業猟師+西洋毛鉤釣り職人ができるまでとこれから』(牧浩之著)は、おかげさまで発刊以来、多くの新聞書評、テレビ番組にとり上げられました。ブログやSNSでもたくさん話題にしていただいています。

著者の牧浩之さんが〈職業猟師+毛鉤釣り職人〉となって5年がすぎようとしています。南宮崎のゆたかな山と河を舞台にして、やりたいことはどんどん増える一方です。地域の方々との交流がさらに深まることで仕事の場も広がっています。自分の暮らす地域のためにもっと役立ちたいという気持ちからの、あたらしい挑戦も始まりました。

『山と河が僕の仕事場』から、COLUMN 11「猟師って儲かるの?」を紹介します。

山と河を仕事場にすると言っても、職業猟師と西洋毛鉤釣り職人で生活をたてるのは、楽ではありません。ときには弱音も口にしたくなります。理解ある家族の応援と叱咤に支えられ、手探りで暮らしが続いていきます。そして筆者は、「まだまだやれることがある。今の僕にしかできないことが、たくさんあるんじゃないか。」と前を向きます。

『山と河が僕の仕事場』は、2017年2月末に続編『山と河が僕の仕事場2|みんなを笑顔にする仕事』がでます。毎日が発見に満ち自然と人とが親密にふれあう、山と河を駆けめぐる暮らしの最新版です。どうぞお楽しみに。

(フライの雑誌社 書籍編集部)

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『山と河が僕の仕事場』

COLUMN 11◉「猟師って儲かるの?」

川崎出身の僕が結婚と同時に宮崎県高原町へ移住して、気がつけば毛鉤職人のほかに職業猟師の肩書きがついていた。

自ら山に出かけて罠を仕掛け、獣を捕獲し、なめし加工を施してフライマテリアルに加工する。それらを使った毛鉤を巻いて販売するかたわら、毛鉤製作の材料として販売する。

毛鉤に使う素材の全てを自分で捕獲した鳥獣でまかなうわけにはいかないが、いずれは…、という野望がある。

獣の毛皮だけでなく、肉もありがたい山の恵みだ。まだ食肉処理設備がないために、肉の販売相手は地元の食品加工業者や飲食店に限られているが、将来は自前の設備を持ちたいと思っている。

害獣として農家からは厄介者扱いされているシカもアイデア次第で立派な収入源になる。

オスのシカの角はアクセサリーになる。シカの骨は愛犬の大好物で、肉を少し残しておいてやるととても喜ぶ。その飛びつき様は尋常じゃない。ドッグフードより健康的だし、残滓を減らすのにも一役買ってくれる。ふむ、ペット市場にもチャンスはあるってことか。

ふと、猟師って儲かるんじゃないか? と思ったりする時もある。

「猟師って儲かるの?」

「生活送れるのかよ?」

僕の実家の両親は心配そうだった。そりゃそうだ、この時代に狩猟をやってるってだけでも珍しいのに、それを生業にするだなんて想像できないだろう。

職業猟師というと、獲った獲物の肉を販売して生計を立てているというイメージだと思うが、僕の場合はちょっと違う。

僕が狩猟を始めたのは、毛鉤用の材料のために鳥や獣を自らの手で調達したいという考えが生まれたからだ。精肉施設のない現在、僕の職業猟師としての収入は獲物の毛と羽根に頼っている。

ぶっちゃけてしまうと、いくら上質でいいフライマテリアルを売ったところで、金額的にはたかが知れいている。毎年の狩猟税や保険、銃の所持許可の更新費や維持費、罠の製作費と維持費などなど、想像以上に経費がかかる。

弾代だってバカにならない。シカやイノシシを撃つスラッグ弾で1発あたり350円、鳥撃ちの散弾で1発あたり180円する。

今の生活スタイルでは、本当に毎月光熱費を払っていくだけで精一杯なのだ。家族の理解があるからこそ、やっていけているようなものだ。

宮崎へ移住して新婚生活を始めてすぐの頃、あまりに家計が厳しくままならないので、地元で職を探して就職しようかと、本気で考えたことがあった。

「何のために宮崎来たの? 地鶏でも育てるため? 宮崎牛を養うため? 違うでしょ、釣りの仕事にプラスになるから来たんでしょ。新しいことやってるんだから、すぐに軌道に乗るなんて思ってないよ。大変なのは大変だけど、ちゃんと納得できるまでやれることやりなよ。もったいないよ?」

家族のためと思ったのは、言いわけに過ぎなかったかもしれない。弘子に本気で怒られた。今も共働きだからこそ、なんとかやっている状態だ。

狩猟だけで食べていくのは、本当に難しいと思う。僕にとって狩猟は、フライフィッシングの一部だ。そういう風に考えると、まだまだやれることがある。今の僕にしかできないことが、たくさんあるんじゃないかと思う。

先のことは見えないけれど、少しずつ手応えを感じ始めている。

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罠の存在に気づかれ、周囲をイノシシに掘り返された跡。賢いものだと苦笑いするしかない。職業猟師にとっては笑いごとでは済まされないのだが。
罠の存在に気づかれ、周囲をイノシシに掘り返された跡。賢いものだと苦笑いするしかない。職業猟師にとっては笑いごとでは済まされないのだが。
温暖な高原町では、9月中頃になると稲刈り作業が始まる。我が家では籾つきのまま保存し、食べる分だけ、その都度精米機にかけている。いつでも新鮮なコメを食べられる。コメ農家の方に感謝。
温暖な高原町では、9月中頃になると稲刈り作業が始まる。我が家では籾つきのまま保存し、食べる分だけ、その都度精米機にかけている。いつでも新鮮なコメを食べられる。コメ農家の方に感謝。
COLUMN 11◉「猟師って儲かるの?」より
COLUMN 11◉「猟師って儲かるの?」より
【新刊】山と河が僕の仕事場|頼りない職業猟師+西洋毛鉤釣り職人ができるまでとこれから(牧浩之著)
【新刊】山と河が僕の仕事場|頼りない職業猟師+西洋毛鉤釣り職人ができるまでとこれから(牧浩之著)