最新の『フライの雑誌』第88号で、今月末に発行予定の小社の単行本新刊『桜鱒の棲む川』(水口憲哉著)について、大々的に告知した。反響も多々いただいてとてもありがたいのだが、じつは現段階でたいへんな問題が発生している。そのことについて、ここに記したい。
というのは、本の制作の大詰めの段階で、執筆の進行と編集のスケジュール管理が激しくバッティングした。単行本『魔魚狩り』や連載「釣り場時評」をお読みの読者はご存じと思うが、水口氏は当代の社会情勢を独自の視点でするどく見きわめて、執筆中の原稿にリアルタイムで反映させてゆくのがスタイルだ。そのタイムラインの緊張感が大きな魅力である。
当然、編集部では今回の単行本でも、著者の意向にできるかぎり寄り添うかたちで本を作ってゆきたいと考えた。打ち合わせを数多く重ねてきたなかで、水口氏の現在進行形の興味の方向性を推し量り、編集なりに意見を申し述べ、新しい原稿のテーマをいくつも依頼した。
かつ、編集部に全国から日々入ってくるサクラマス関連の魅力的な新情報を、スケジュールに間に合うと思う範囲の中で水口氏へ逐次提供してきた。ところが水口氏のレーダーは、編集部が把握している周波数をはるかに超えていたのである。そんなのはじめから分かっちゃぁいたのだが、大いに甘かった。ドラグ鳴らしてビューンと突っ走られ、気がつくと成層圏に連れて行かれていた。酸素が薄いよ。
結果として、じつは現時点でようよう全部の原稿の8割が届いたところである。このスケジュールの遅れの原因のすべては、編集部の力不足にある。『桜鱒の棲む川』へは、すでにたくさんのご予約をいただいているのに、こんな情況で今月末の発行予定に間に合うのだろうか。先にサクラが咲いちゃうのではないだろうか。
スケジュールよりも中身の充実を最優先とする、フライの雑誌社の伝統的な言い訳にのっとりここで大きな声で言っておきたい。
〝そのかわり、世界に2つない本になるはずです〟