画家・中村善一さんと島崎憲司郎さんは、同じ桐生市内に暮らしている。お二人ともそれぞれの分野で長く独自の活躍をしておられるが、これまで直接の接点はなかった。
2015年冬、桐生タイムス記者の青木修さんが仲介となるかたちで、中村さんが島崎さんの著書「水生昆虫アルバム」を手にした。中村さんは釣りをやらない。ましてフライフィッシングについてはまったくの門外漢だが、『水生昆虫アルバム』が語りかけてくる島崎憲司郎さんの世界観に、つよく撃たれたという。
2017年、『水生昆虫アルバム』の初版発行から20年を迎えるのを期に、編集部が青木さんにお願いして、中村さんのアトリエに伺ってのインタビューをまとめたものが、『フライの雑誌』第110号の巻頭記事、「本を開いた途端に、自分が川にいる。中村善一さん、『水生昆虫アルバム』(島崎憲司郎著)を語る」である。(この記事は全文を無料で公開している。ぜひご一読を。)
中村さんの『水生昆虫アルバム』への感想は、まさに本の中で自分が伝えたかったことを適確にとらえ、評価してくださっている、本当にありがたいことです、と島崎憲司郎さんは言う。
2016年12月18日、青木さんの手により、中村さんと島崎さんの対談が実現した。場所は第110号のインタビューを収録したのと同じ、中村善一さんのアトリエだ。島崎さんは、「水生昆虫アルバム」の内容に合致したシマザキフライを、新たにタイイングして手づから額装し、中村さんへのお礼として携えていた。
その〈異分野対談〉の様子が、2016年12月30日の桐生タイムスで紹介された。もちろん青木修記者の筆によるものだ。許可をいただいて、本欄に以下転載する。
・・・ここから転載記事・・・
絵を解く(326)
門外漢の驚き
名著20年特集を飾る
当欄執筆者の私家版「十二の物語」に表紙絵「オンブバッタ」を寄せてくれた画家の中村善一さんが、今月発売の「フライの雑誌第110号」の巻頭に登場し、フライフィッシングの世界観を変えた古典「水生昆虫アルバム」(島崎憲司郎著)について「初版から20年たって、この本の価値をもう一度皆さんに知ってもらいたい」と語っている。
昨冬の「十二の物語とオンブバッタ展」の会場で島崎さんと初めて会った中村さんは「水生昆虫アルバム」の文と写真とイラストに圧倒された。
雑誌編集者は釣りの門外漢のこの驚きに着目。「本を開いた途端に、自分が川にいる。虫と魚と人間との関係性、それらを全部含んだ自然を、臨場感をもって体感できる」の感想をもらって、刊行20年の特集を組んだ。
18日、1年ぶりに再開した中村さんと島崎さんの、異分野対談は尽きなかった。(葉)
写真キャプション:シマザキフライの額を手に、島崎さんの愉快な解説を楽しむ中村さん。「水生昆虫アルバム」は2005年に新装版が出た(フライの雑誌社刊)
桐生タイムス 2016年12月30日掲載
・・・転載終了・・・
生まれて初めてフライというものを見たという、中村さんの笑顔がとても素敵だ。
青木さんによると、この日の対談では、島崎憲司郎さんの〝愉快な解説〟に、終始アトリエに笑い声が途切れることはなかった。「水生昆虫アルバム」執筆の背景はもちろん、中村さんは羽舟竿を用いた島崎さんのフライキャスティングの物理とビジュアルの美しさについて、ひときわの興味を示されたという。
ところで、フライフィッシャー的には、島崎さんが中村さんへプレゼントしたフライが気になる。記事中では触れられていないが、写真を思いきり拡大してみると、〈ヒゲナガカワトビケラ・フライのバリエーション〉ではないか。形状的に、ラーバ、マシュマロ・ピューパ、マシュマロ・アダルト、それにダイビング・アダルトではないかと思うが、残念分からない。
シマザキフライは時々刻々と進化する。シマザキフライのヒゲナガパターンは第94号の〈博物館のシマザキフライ〉で紹介しているが、あの時と今では全然違う。今度島崎さんに聞いてみよう。
「本を開いた途端に、自分が川にいる。虫と魚と人間との関係性、それらを全部含んだ自然を、臨場感をもって体感できる。出版から20年たって、この本の価値をもう一度皆さんに知ってもらいたいですね。」(第110号の中村善一さんインタビューから)