『釣りキチ三平』実写化への違和感とリスペクト

映画監督の末永賢氏と新宿三丁目の居酒屋で酔いどれた。『釣りキチ三平』実写化への違和感とリスペクトを関係者へ直撃インタビューした『フライの雑誌』84号の記事を読んだ監督は、「あれは面白かったね。」と言ってくれた。どこらへんが面白かったですかとたずねると、「ああいうのは映画雑誌にはぜったい載らないから。」とのこと。おなじ業界内の媒体だと記事の書き方にもいろいろ制約があるのだろう。

監督は釣りをやらない。だから『釣りキチ三平』への思い入れはないし釣り師の微妙な感情の機微は分からない。そんな監督にもウケたというのは、マニア系な釣り雑誌の編集者としてはとてもうれしいことだ。たこはたこつぼが好きですが、じゆうに泳げるひろい海にもあこがれるんです。

この日監督はちょっときこしめしていた。監督は中国文化に造詣が深い。通りがかった店のお姉さんを呼びとめて、「シャオチェ、『よかいち』ボトルでくだしゃい」と酔眼で注文する監督の横顔をみながら、私は20数年前の秋の日を思い出していた。

あの日深夜、仲間と楽しくくつろいでいた部屋に着流しの男がとつぜん乱入してきた。男は一升瓶をテーブルの角でバーンと割り、うす笑いしながら「おまえら文句あるカー!」と叫んだ。それが監督だった。

文句あるもなにも、なんでそんなことされるのか私には意味不明だった。腹が立ったがほぼ初対面だし年上だしけんかするか我慢するか迷った。するとまわりの人々が「やめましょうよ〜、もう〜。」と言って笑いながら部屋を掃除しはじめた。だからなんとなく私も雑巾を手にした。監督は仁王立ちしたまま左右にぐらぐら揺れていた。

そんなわけで20数年がたった。今夜は二人でならんでお酒をのんで、私が書いた記事を監督がほめてくれている。監督はさいきん尿酸の数値が高いらしい。