今月号の「フライフィッシャー」誌(つり人社)は大力作だった。よくこれだけの内容の本を毎月毎月出せるなあと心からリスペクトします。この濃度でしかも小さい級数の文字がぎっしりだと、読む方もたいへんだ。ふつうの生活をしている釣り人は(しかもいそがしい季節では)、相当がんばらないと読めない。むかし「本の雑誌」で、〈月刊「文藝春秋」全ページを一字一句漏らさず読みきる企画〉みたいのがあった。「フライの雑誌」もさいきんは毎号140ページくらいある。全文字読みきるのはかなりたいへんだ。
携帯、モニタ、印刷物、、、。現代は人類史上でもっともテキストがあふれている時代ということだ。興味のあるテキストだけ選んでもとうてい読みきれない。身の回りには面白そうな無料のテキストがあふれている。そんな中でたかが釣り雑誌を買って、読んでいただくお金と時間と労力へ思いをはせる。伝えたいこと、残しておくべきことが星の数ほどたくさんあるのを、四次元的に取捨選択して、読者へ分かりやすく届けるのが編集者のしごとだ。それだけのことであるがために、いろいろ悩ましい。
100年後の人間が手にとってもそれなりの意味があって、それぞれ面白がってくれるような本を作ることを、編集者として心がけている。ただし100年後に人間が生きているかどうかは分からない。人間がいなくても魚は川に泳いでいてほしい。人間がいないほうが魚も虫も鳥も獣も植物も栄えるから、人間なんていないほうがいいかもしれない。でも人間がいないとわたしが残した本を読んでくれる人もいない。それはさびしい。
「核のない世界を」と「原発のない世界を」は同義だ。言葉は口に出された瞬間から空虚になる。でも言葉に出してから始まる現実もある。ただし政治家の言うことはとりあえず全部ウソで、空虚とか味噌だとか関係ない。あらゆる政治家は詐欺師だ。でも騙される人が多いのは騙されたいから。「彼女はわたしを愛していると言ってくれた。あなたと結婚したい。そのためにお金が必要だって。彼女は詐欺師なんかじゃない。」 「あの人はあたしと結婚するって言ったの。奥さんとは冷え切ってる、きっと別れるから、お前を幸せにするから、って。彼は詐欺師なんかじゃない。」
夢見させてくれているあいだは詐欺じゃない。
ところで、最近気になったことをひとつ。「笑点」新司会者の昇太師匠が56歳で、新加入の三平師匠が45歳で、「若返りをはかりました。」というのは、ジャンルとして明らかにまずいと思う。