この星のサカナをおれにぜんぶ釣らせろよ

南米は行ったことがない。この先自分の人生でこういう川でこういう釣りをするときはあるのかなあ。って微妙なもの言いだ。いつでも行けばいいじゃんと自分で突っ込む。

わたしがほんとうにやりたいのは日常の釣りだ。10代、20代、30代と少しだけアウェーをうろうろしてきてわかった。基本がドメスティックな性格のわたしには、せいぜい住まいから半径100㎞くらいの釣りがいちばん似合っている。飛行機だのガイドだの代理店だのと他人様を煩わせることなく、手の届く範囲を繰りかえしたのしむのが好きだ。自分の釣りはadventureやtripのなかにはない。

しかしtripでも祭りでも大鑑巨砲主義でもかまわない。せっかく釣り師として生まれてきたのだから、ふだん暮らしているのとおなじ地球上だとは信じられない景色の中へどこでも突っ込んで行って、とにかくでかくてきれいでめずらしいサカナを釣りたいじゃないか、この星のサカナをおれにぜんぶ釣らせろよこんちくしょー、とも思う。背中から湧きたつような、そういうそわそわした矛盾がある。

自分で作った庭の池のほとりにしゃがみこみ、浅川から連れてきたハヤなんぞがフワフワと元気におよいでいるのを愛でながら、ときどきため息ついて日野の空をみあげる。

まだ若いな。フッ。

葛西善蔵と釣りがしたい 堀内正徳著(『フライの雑誌』編集人)|葛西善蔵と釣りするくらいがちょうどいい。
葛西善蔵と釣りがしたい 堀内正徳著(『フライの雑誌』編集人)|葛西善蔵と釣りするくらいがちょうどいい。