こんな時代の釣り雑誌二態 ─『ルアーマガジンリバー』と『釣道楽』

●誰もが認める構造的出版不況の波を蹴立てるかのように、商業釣り雑誌の第一号が4月21日に新しく出版された。『ルアーマガジンリバー』という。先頃、惜しまれつつ休刊になったマス専門のルアー釣り雑誌『Gijie(ギジー)』の遺伝子を引き継いでいる。〈今までになかった新しいトラウトと川の総合誌〉、〈トラウト+ルアー+川+アウトドアがこの1冊に〉というのが版元である内外出版社さんの惹句である。

内外さんのサイトには第一号のコンテンツは掲載されていないようなので、ここでざっと紹介すると、第一特集は「春の渓流で活きる、ミノー&スプーンテクニック」。Gijie誌にもよく出ていた有名ルアー釣り師三名が渓流魚を釣るテクニックを紹介している。美しい写真とハウツーイラストを中心とした構成は釣り雑誌の王道だ。第二特集は「北方の釣り人、本波幸一 巨大鱒に懸ける夢」。この企画はGijie誌そのものの感だがテンポの良いレイアウトがよりポップなテイストをかもしだしている。

その他、「安全な渓流の歩き方」「気になるあの人のタックルボックスの中身」「シングルキャンプギアセレクション」「熱血ストリームレッスン」など、第一号の企画の立て方はビギナー寄りの全方向だといえる。まずはあれこれメニューに載せて反応を伺い、追ってこれからの誌面の方向性を煮詰めてゆこうという姿勢が見てとれる。

雑誌の第一号とか創刊号は得てして総花的になる。それは生まれながらにして死に向かうことを運命づけられている雑誌という生きものの特性である。『ルアーマガジンリバー』に限って言えば、コンテンツはたしかに総花的であるにもかかわらず全体にまとまりを感じられる。総花の勢いを殺さずに各記事に整列をかけることに成功しているわけだ。雑誌作りの職人のウデがよいのであろうと思われる。

この第一号で個人的にオッと思ったのは「必釣! 桂川完全後略!!」というカラー6ページの企画である。それはもちろん私がここ2年ほど山梨県の桂川の釣りにずぶずぶとはまり始めているからで、記事の見出しを見たときには「桂で必ず釣れる? うっそーん、ほんとー?」と年がいもなく興奮した次第である。

地元の釣具店の親子が桂川を釣りのぼってゆく一日に密着して、彼らに釣りをしてもらいつつタイムラインに沿ってポイントをマップ付きで紹介するという、複層的な企画が面白かった。桂師を志す釣り師はこの記事は押さえておいた方がいい。

私がいつも行っているポイントもばっちり事細かに出ていたわけだが、いくら大々的に紹介されたところで何しろ桂川だ。編集部に文句を言ったり「俺のポイントを書くなよ」と不愉快になる筋合いでもない。紹介されていたのはニシ地区だったし。ぼくが好きなのはシモ地区だし。

ここらへんの桂川のニシとシモのポイント特性や各地区のヤマメ釣りの裏事情は、我が『フライの雑誌』の85号86号に載せた「ヘンタイ桂師座談会」がまさにヘンタイ的にくわしい。試しにフライの雑誌社ウェブの右サイドバーにある検索窓で「桂川 ヘンタイ」と入れて検索してみてください。本エントリを含めてヘンタイ記事が5つヒットします。

ともあれ新創刊の『ルアーマガジンリバー』第一号の一押しコラムは巻末の「水の都 探訪」だ。郡上八幡・吉田川が第一回の舞台。筆致は一見軟弱で気弱げだが、筆者が心の内に抱えている川とそこに暮らす人々への飾らないしっかりとした想いが行間からにじみ出ていて清々しい。若くてまっすぐでいい文章だ。

●さて、『フライの雑誌』にも広告を出してくれている北海道の釣り&野遊び道楽誌『釣道楽』の最新号がすでに発行されている。08号にして完ぺきに自分の立ち位置を確立した印象だ。ほかの誰もどこの雑誌も、『釣道楽』以外の媒体は一切真似のできないオリジナルで貴重な立ち位置だと言える。上海万博のテーマソングとは対極の存在である。

今度の08号も巻頭からばきばきに色鮮やかなカラーグラビアが満載である。ほんとにため息をつきたくなるような素晴らしいカットばかりを、ほんとにため息をつきたくなるような金持ちなレイアウトで魅せてくれている。(版元がほんとに金持ちかどうかは不明)。今日、サンスイさんの池袋店さんへ行ったところ08号は残り一冊となっており、店員さんによれば「今号も売れてますね」とのことだった。

こういう時代になればなるほど、重要になってくるのがオリジナリティだ。誰がなんと言おうと、自分の信じるオリジナリティを貫いている人やモノはつよく、かんたんに揺らがない。『釣道楽』にはそのぶっといホネがある。

ところで『釣道楽』にはまだ公式ウェブサイトがない。私は『釣道楽』の編集人とは一応友人なので「はやく作ったほうがいいんじゃない」とこれまで何十回以上も伝えてきたのだが、「だよね〜、わかってるんだ〜あ」と北海道弁でのんびり答えるばかりで2年以上もまったく進まず、彼の大きなお尻を叩くのもいいかげん面倒になってきた。リンク張れないんだ〜あ。

『釣道楽』(株式会社碧風舎/fax.011-826-6918)