とある本の問屋さんの社長から直接聞いたのだが、

釣り関係の本には、昔から〈海外ものは売れない〉というジンクスがあるそうだ。社長曰く、渓流釣りの本は安定して売れる。しかし海外遠征ものの釣り本は、これまであまり売れたことがない。じゃあ開高健の名作『フィッシュ・オン』は、『オーパ!』はどうなんだと言いたくなるが、あれは別もの。

峰々からしみいでる渓流を、奥へ奥へと遡上してゆく行為には、いい知れぬ浪漫がある。それを母の股ぐらへの回帰だと言う人もいるくらいで、渓流釣りの本の書き手と読者との共感は、一般になりたちやすい。読者は居間で本のページを繰りながら、清冽な渓流のマイナスイオンを浴びた気持ちになれる。

対して、海外遠征ものの釣り本は、どうしても大きいの釣ったよ、たくさん釣ったよ、珍しいの釣ったよ、に傾きやすい。読む方としては、「だから何なんだよ。おれだってそんなとこまで行けば・・・。」と、無意識のうちに鼻白むのかもしれない。こんな本もう二度と読むか、ポイ、となるのかな。

『フライの雑誌』最新第86号では、「辺境を釣る。」という特集を組んだ。パタゴニア、インド、アムール、アマゾン、ネパール、ヒマラヤと、いかにも辺境チックな地名が連なるなかに、ひょっこり「東京」という単語も出てきたりする。

なぜなんだ、東京のどこが辺境なんだと思った方は、本を手に取ってみてください。あなたの明日からの日々の暮らしに注ぐ太陽の光が、違って見えてくるかもしれません。『フライの雑誌』らしい心にのこる一風かわった特集です。

で、〈海外ものは売れない〉ジンクスが今度の『フライの雑誌』に影響するかどうかは、神のみぞ知る。