つり人社さんの月刊誌『FlyFisher』誌8月号付録のDVDを先週ようやく観た。「フライフィッシングフェスタ2009」での島崎憲司郎氏のタイイングデモが面白いから観ろと周囲の方から言われていたのだが、目の前の締め切りと自分の釣りにかまけて遅れてしまった。ぼくらの愉しいフライフィッシングを構成する膨大な要素の中で、キャスティングとタイイングを平面で説明するのは困難きわまりない。ことにフツーのフライとはそもそもの発想から異なるシマザキフライのタイイングを誌面で完ぺきに説明するのは、紙媒体の編集者にとって大仏を耳かきで削りだすようなものだ。身の程を知っている私どもの場合そんな時は『フライの雑誌』第83号のようにご本人に登場していただいて自ら語ってもらうという手段をとる。凡才が下手に加工するよりそのほうが当然のことながらはるかに面白いからだ。
で、『FlyFisher』誌8月号のDVD付録に収録されている最新シマザキフライのタイイング動画は、デモ会場で観客をぐいぐい引き込んで離さない島崎氏ならではの話芸とため息が出るくらい繊細な手の動きをそのまま無修正で映し出している。このライブ感はぜったいに紙では表現できないものだ。2006年のDVD『ザ・シマザキ・イノベーション』シリーズ(つり人社刊)にも同様の迫力があった。動画という別次元の伝達手段を手中にしている『FlyFisher』誌さんがうらやましい。ただこの付録には島崎氏が「シマケンループノット・ツール」を使うシーンも収録されていた。このツールはまさにオリジナリティ100%のシマザキものの真骨頂を体現しているので、残念ながらこの短い動画だけでその作り方と使い方を理解できた人はあまりいなかったに違いない。その点においては、カラー5ページを使って説明しきった我が『フライの雑誌』第75号の特別企画「シマザキ・オリジナルノット&ノットツール解説」(2006年)が役立つと思う。微に入り細にわたり絵を止めてしつこくじっくり掘り下げるのは紙の得意分野だ。「フライフィッシングフェスタ2009」のvol.2は9月号付録に収録されているとのこと。
それにしてもこれだけのクオリティのDVDを毎月毎月雑誌の付録にしてしまうなんて色々な意味でまったくオソロシイことだ。いずれ収録動画のなかからこれはという作品を選んで傑作選DVDを作ってくれたらいいのにと思う。ところでふと気がつくと『FlyFisher』誌さんは本文128頁がなんとオールカラーになっていた。これは印刷代的にオソロシイことだ。この不況下でさすがである。もうひとつ、小中学生の頃の私は父親が毎月買ってくる月刊『つり人』を隅々まで読み込んで、いっぱしの釣り人気分を味わっていた頭でっかちの子どもだった。そんな私はじつは最近の月刊『つり人』が子どものころのドキドキ感そのままで、本当に愉しい。ちなみに編集後記ページに毎号掲げられている〝「つり人」創刊之詞〟(昭和21年発表)は時代を越えて新鮮でつよいメッセージなので多くの釣り人に読んでいただきたい。