ぼくと小父さん/足でキック

多摩川のワンドでヘラブナ釣りをしている小父さんを後ろから見ていた。浮きがきゅいんっと横走りしたが小父さんは放置。「あれはジャミ(雑魚)ですか」「ジャミだな」。ついで浮きがかすかに震えたと思うとすかさず小父さんの見事なアワセが決まり、7寸級のヘラが釣れた。「すごいですね、あのアタリは僕にはとれない」「あれをとらなくちゃ多摩川ではヘラは釣れんね」。小父さんが振り向いて笑った。ヤニで歯が真っ黄色だ。
家に帰ろうと土手の石積みを登った。後から私を追い抜こうとしているやつがいて、上着の裾を引っ張るので、足でキックしたらバランスを崩して落ちていった。ざまみろ。土手のてっぺんに手をかけて身体を持ち上げたとき、とつぜん目眩が。景色が暗くなりゆっくり後ろに倒れて私も真っ逆さまに落ちていった。なんかおれカンダタみたいじゃん、とか思いながら。夢の中までモラリストぶらなくてもいいのに。『フライの雑誌』第75号発行まであと17日(ヤマト風)。