日曜日の午後にくつろいでいたら、いつものおいも屋さんがおいもの歌を高らかに鳴らしながら、いつものようにやってきた。ぴったり目の前に駐車して、おもむろにスピーカーの音量を上げた気配である。早くおいもを買いに行かなくちゃ。
しかし私がおいもを買いに行けばどうしても最低1000円は買ってしまう。前にも言ったが私はそんなに毎週おいもをたくさん食べたいわけではない。
そこでちょうどそこらにいた5歳児を呼びとめて、「おいも買っといで」と500円玉を一つ渡した。「500円分くださいって言うんだぞ」。子どもを使っておじさんを避けるというのが少し情けないが、半分のお代ですむならそのほうがいい。我ながら名案だ。
5歳児はおつかいを命じられてうれしいらしく、すぐさま表へ飛び出して行った。カーテンの影からそっと表の様子をうかがうと(べつに隠れる必要もないんだが)、5歳児は車から降りてきたおじさんを見上げ、なにやら一丁前に会話をしている風だ。おいもを一人で買えるようになったんだな。
しばらくして玄関のドアが勢いよく開き、「おいも買ってきたよ!」という元気のいい声がひびいた。よくやった。これからはこの手でいくか。
鼻の穴をふくらませた5歳児から、ほかほかのおいもの袋を自慢げに渡された。ズシリと重い。開けると、王蟲の王様みたいに太くて立派で巨大なおいもが一本、中からゴロリと出てきた。なんだこれは。見たことがないでかさだ。これで500円なのか。お前おじさんになんて言ったんだ。すると5歳児は
「いちばん大きいおいも一本ください、って言った」
なんと。5歳児なのに大阪のおばさんみたいじゃないか。私にはそんなシビアな要求はできない。おもわず感心すると外で軽トラのドアがバタンッと閉まる音がした。そしてふたたびおいものうたが流れ出し、ゆらりと揺れて遠ざかった。おじさんは次の猟場へと向かったのである。
今日は大阪のおばさんみたいな5歳児のおかげで、500円ぽっきりで巨大なおいもを手に入れることができた。ていうか、おじさんのやさしさを知った。
またおいも買わなくてはいけないねえ。