やさしく叱って。

私は釣りビジョンさんの携帯サイトに連載コラムの場をいただいている。ふだん誰かに「書いてください」とお願いはしても、誰かから「書いてください」とお願いされることは滅多にない。ちょっとうれしくて恥ずかしくて、秋のニジマスみたいにほほを染めながら依頼を引き受けた。第一回は去年の5月だった。

一回数百字以下のほんの短い文章なので、時間がある時に書けばいいかと思っていた。だけどよく考えてみたら、永世的に人手がない我が社ではヒマなときはほとんどない。走るのをヤメたら腐海に沈んでゆくばかりだ。少しでも隙があれば、むりやり自分の釣りに行っちゃうわけだし。

釣りビジョンさんには、番組中でフライの雑誌社の単行本の宣伝をしてもらったり、『フライの雑誌』の定期購読をしてもらったりと、とてもお世話になっている。が、そんなわけで日々の身すぎ世すぎに追われていると、わざわざ他人様の庭でホウキを持つことが、正直億劫になりがちであった。本来は「一週間に一回以上」のコラム更新ペースを約束していた筈なのに、ふと気がつくと一ヶ月に一回とか二回とかがやっと。これでは大嘘つきな人である。

それで、じつは先週、釣りビジョンの担当者さんに初めてやさしく怒られた。いわゆる原稿の催促である。じつは私はこれまでの人生で、原稿の催促を受けたことは一度としてない。だからこれは「うまれて初めての原稿督促」だった。先方にはたいへん申し訳ないが、なんかボクって必要とされているのかなとうれしくて恥ずかしくて、またいっそうほほを染めた。

担当者さんとはこの一年半、事務的なやり取りがほとんどだった。この際なのでメールでちょっと甘えてみた。「もう、もっと早く催促してくれれば良かったのにぃ。」といった具合で。きもい親父だな。釣りビジョンのTさんは業務をまじめに遂行しただけなのに、こんな親父に意図せずまとわりつかれることになって、気の毒である。

せっかくだからTさんに、前から知りたかった自分のコラムへのアクセス数も思いきって聞いてみた。そうすると予想よりもはるかに多かった。さすがマスメディアは違う。これからも本の宣伝に使ってもいいと寛大におっしゃるので、零細版元にはとてもありがたいお話だ。だから今後はがんばって、もっとコラムの更新ペースをあげようと思う。だいたいそんなご立派な文章を書いてるわけではないだろ、つべこべ言わずやれ! この無能者が! と私なら私に言うだろう。

Tさんに「もっと催促してくださいよぉん。」とまとわりついたとき、『フライの雑誌』の寄稿者さんでいつも原稿が遅れる人々も、じつは毎回こういう甘美な感覚を味わっていたのかしらん、とふと思った。そうだとするとまったく始末がわるい。気持ちわるいし。これからはビシビシ行く。