【公開記事】オイカワ釣りが好きすぎて(堀内正徳)

特集◎身近で深いオイカワ/カワムツのフライフィッシング

オイカワ釣りが好きすぎて

堀内正徳(東京都日野市/本誌編集部)

『フライの雑誌』第106号初出

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オイカワはどこから来たか

編集部の目の前に流れる浅川へ、4月から12月までの夕方はオイカワ釣りに浸かっている。今年はここまで週に3回か4回のペースだ。

オイカワ釣りが好きすぎて何から書いていいのか分からない。1993年に紙のプロレス編集で『猪木とは何か?』という本が出て面白かった。それでつい何かというと「××とは何か?」という安直な問題の立て方をするくせがある。だから「オイカワとは何か?」から始めよう。

オイカワは日本、朝鮮半島、台湾、中国東南部に分布している。日本列島では九州、四国、本州各地、北海道の、河川やダム湖をふくめた湖沼、公園の池に生息している。沖縄をのぞいてほぼどこにでもいる、ということだ。

広い場所なら友だち同士で並んで釣るのも楽しい。10歳と75歳の二人が並んでオイカワを釣っている風景。
広い場所なら友だち同士で並んで釣るのも楽しい。10歳と75歳の二人が並んでオイカワを釣っている風景。

オイカワの原産地はややこしくなる。「オイカワの日本における分布域の拡大」(水口1990)には、1924(大正13年)に始まった琵琶湖産コアユの移殖放流事業と共に、混獲された琵琶湖産オイカワが全国の河川へまかれた。─とある。

コアユ放流が行なわれる以前は、オイカワは関東以西の本州、九州、四国に生息し、北海道、東北にはいなかった。本州日本海側にもほとんどいなかった。関東地方には利根川あたりを北限として、コアユ放流以前からオイカワが自然に分布していた。ただしフォッサマグナを境に関東地方の集団は西日本のそれとは分断されていた。

同論文では、全国各地の漁協へアンケートを実施して、たくさんあるオイカワの地方名を記録してあるのが面白い。25年たった現在、オイカワがどのように各地で呼ばれているかは、本号の読者アンケートであきらかになった。

オイカワはどこにでもいる

この「水口」とは本誌執筆陣の水口憲哉さんのことだ。水口さんの東大大学院での博士論文(1969年)のタイトルは、「オイカワの繁殖生態と分布域の拡大に伴う二、三の形質変異」であるから、筋金入りのオイカワ好きである。オイカワを専門に研究する研究者は非常に少ないらしい。水産的に価値が低いのが理由のようだ。だって食べ比べればマグロやウナギよりおいしくない。

本誌第103号の「水辺のアルバム」で、水口さんがオイカワを「正真正銘の雑魚」と呼び、「雑魚ですら、だからこそ、数カ国の人々と地域によっていいようにもて遊ばれている。」と書いたのは、存在すら無視されがちな雑魚への愛情の発露といえる。どこにでもいる魚を、素通りせずに長い期間見つめ続けるのには、見る人の意思が必要だ。

そして、釣り人には、オイカワがどこにでもいる魚だからこそ、かけがえのない大切な魚になることもある。今号のアンケートでよく分かる。みんなオイカワ好きだったんですねと言いたい。ハヤが好きな人は信用できる。

「雑魚」について

オイカワの属名、zaccoに関連する人間のドタバタは第103号の「水辺のアルバム」を読んでほしい。わたしは個人的に「雑魚」という言葉を使うのに、ずっと抵抗を感じてきた。上から目線な匂いがするのがいやだった。

ゲームやアニメで、頭数合わせのどうでもいいキャラクターを雑魚キャラと呼ぶ。敵ならかんたんに死ぬ。へたすると顔が「へのへのもへじ」だったりするのは、あんまりだと思う。わたしは幼少のみぎりから、カブトムシよりカナブン、ジャイアンツよりタイガース、千代の富士より寺尾に心を寄せていた。寺尾もタイガースも雑魚キャラではもちろんないが、ニュアンスを分かってください。映画の最後のスタッフロールの細かい人名が気になって一人一人暗記したという色川武大さんはすごい。

こういうのはなかなか釣れない。
こういうのはなかなか釣れない。

小学館「ビーパル」誌で「雑魚党」というシリーズ企画を目にするたび、エラそうでやだな、という思いを禁じ得なかった。椎名誠さんは好きだけど「怪しい雑魚釣り隊」は読まない。おじさんたちが自転車であちこちを回って小物を釣る月刊つり人の「釣輪具雑魚団」に至っては、漢字のタイトルから何かもう。

今回「雑魚」の語意を改めて確認した。すると雑魚にはたしかに〈地位の低い者、取るに足りない者〉を指す侮蔑の意味もあるが、〈いろいろな種類の入り交じった〉の意味がある。江戸時代は魚市場を「雑魚場」と呼んでいた。桂ざこばの名跡はそっち筋だ。

考えてみれば「雑誌」は〈雑然とした紙の束〉のことである。混沌の向こうにだけ光りはある。わたしごときが「雑魚」で妙な反応をすることはないと思い至った。

農文協の人間叢書『おもしろ学校公開授業 雑には愛がいっぱい』(名取弘文)では、「雑」をモチーフに多様な立場の人が小学校で公開授業を行なっている。「雑魚」でウマヅラハギを題材にしたのは、若き日の水口憲哉さんだ。同書で小泉武夫さんは「雑菌」を、小林カツ代さんは「雑煮」を授業のテーマにしている。

本の前書きにはこうある。〈雑という字を「さまざまな」「多様な価値の」と読むと、今まで見えなかったことがたくさん見えてきます。〉〈この雑踏の世界にどうぞご一緒に。〉

─雑魚、いい感じになってきた。

オイカワは、フライフィッシング的に言っても、「正真正銘の雑魚」だ。オイカワのフライフィッシングには、フライフィッシングのすべての要素が入っている。こんなに身近にいて、身近であるが故に、もっとも多様な釣り方で楽しめる魚である。魅力は深い。

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