オホーツクの男がやって来た。

このくそ暑い東京に、会社の研修だとかでわざわざ呼び出されてきた彼には、心から同情する。これから一週間の東京滞在である。
「いま羽田に着きました〜。息ができません。ダメです。…帰りたい。」
初日からこれでは先が思いやられるが、気温差20度をたった90分で飛び越えてしまったのだから、もっともなことだ。この男は生まれも育ちもオホーツクである。見かけはただの肥った中年男だが、暑さにはクリオネ並に繊細なのだ。
「なんすかこの人の多さ。田舎ものの俺には勘弁です。よくこんなとこで暮らせますねえ! あたまおかしいんじゃないすか!」
この男と週末に新宿の雑踏のなかで待ち合わせすることになっている。うるさそうだなあ。君が東京の気温を上げてるんじゃないのか。