「想像した以上に、壊すのは造ることより難しい。ゲート(水門)撤去などの技術を残していきたい」
全国初の本格的なダム撤去工事が始まって9月1日で1年を迎えた熊本県営荒瀬ダム(八代市)。施工するフジタ・中山建設工事共同企業体の現場トップ、桑本卓総合所長(63)=フジタ九州支店=が西日本新聞の取材に応じ、「想像した以上に、壊すのは造ることより難しい。ゲート(水門)撤去などの技術を残していきたい」と語った。
-1年を振り返って。
「球磨川の流量が事前調査より1・3~1・5倍多く、本体底部から固い岩盤が見つかるなど想定外の事態もあったが、基本的に順調に進んだ」
-前例のない工事だ。
「河川内に作業場を設けるため、ダム下流側の一定の区域を締め切る作業は水量が多く難航した。また、水中に設置した汚濁防止フェンスは1重では濁った水が漏れたため、2重にして止めた」
-ダムや橋、トンネルなどのインフラが老朽化している。壊す技術が必要との見方もある。
「私は全国7カ所でダムを建設した。確かに老朽化するが、適切な維持管理・補修をすれば半永久的に使える。単に壊す、という発想に直結させない方がいい」
「この現場で分かったが、壊すのは想像以上に造ることより難しく、ものすごいエネルギーとコストがかかる。例えば、16分割して撤去した1門目のゲート(縦10メートル、横15メートル、79トン)。切断中にゲート自体の重みで変形や落下しないよう、ミシン目を入れるように切って異常ないか確認した上で切断するなど神経を使った。本体底部で見つかった岩盤もそう。削らなければ、ダム湖の水位を下げる装置を設置する次の工程に進めない。約2カ月間の夜間作業が必要となり、周辺住民を訪ねて理解をいただいた」
-当面の施工計画は。
「2013年度中にゲート4門と門柱3本などを撤去する。門柱解体のため、9月上旬に火薬を使ってコンクリートにひびを入れる。ヤマ場は14年度の右岸本体底部の撤去。ダム上下流部の河床の高さが同じになり、川本来の流れに戻る。アユなどの遡上(そじょう)が可能になると想定している」
-荒瀬はダム撤去の試金石として、技術確立が期待されている。
「応用可能な面とそうでない面がある。ゲートの有無や構造、立地、環境面でそれぞれ条件が異なるからだ。ただ、ここでのゲート撤去や本体の穴あけ、制御発破(騒音や振動、発破片の飛散を抑える手法)など一つ一つの技術はしっかり確立し、残していく考えだ」
=2013/09/01付 西日本新聞朝刊=
一方、9月1日に行われた荒瀬ダムの地元・八代市の市長選挙では、ダム撤去に賛成していた現職が落選。自民、公明党推薦の前県議会副議長が新市長となった。新市長は政権や県との密接な関係を誇示し「国、県と連携することで早期に(公約を)実現できる」と話している。