有名フライショップの有能な店員である、親愛なる長年の友人H氏(年下)から電話がかかってきた。H氏は知性と若さと勇気と体力とやさしさを兼ね備えたヘンタイ釣り師にして、わがフライの雑誌社の重要なブレーンである。
注※フライフィッシングをまじめにやってる釣り師にとっては〝ヘンタイ〟とはほめ言葉である。〝どヘンタイ〟なら尚可。
H氏 「『フライの雑誌』の98号いつでるんすか」
私 「スイマセン、11月の10日くらいです。スイマセン」(こういうときは敬語)
H氏 「そうすか。じゃバックナンバー注文しておこうかな」
私 「あ、ありがとうございます」(こういうときは敬語)
H氏 「ところで97号の〈釣り人の明るい家族計画〉、売れませんね」
私 「(むっ)…他のとこだと評判いいけど?」
H氏 「他のとこは知りませんがウチの店では動かないっす。だって珍しく追加ないでしょ」
私 「そういえばたしかに」
H氏 「〈辺境を釣る〉の第86号と同じっくらい動かないです。断言です」
ぐッ。過去の売れ行き不振号の具体例を挙げて迫ってくるH氏。よりによって〈辺境を釣る〉を引き合いに出すとは。
あの86号はたしかに編集側の自信と読者からの高い評判に売れ行きが反した残念な号だった。痛いところを突かれたこちらには返す言葉がない。
はずはなく、そりゃ君がヘンタイ店員をやってるヘンタイ釣り師ばかり集まるようなヘンタイ的な店だから楽しい内容の特集号が動かないんだよ! とビシッと言ってやりたいところだ。
だがこっちも大人だし向こうは一応お客さんだ。そこはグッとこらえた。
はずもなく、そのまま言ってやった。ヘンタイ連発してやった。
ヘンタイヘンタイ言われて当然H氏は大喜びだったという、まあしょうもない、どヘンタイな電話だった。
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追伸:H様、いつもお世話になっております。ご注文いただいたバックナンバーをお送りしました。今後ともどうぞよろしくお願いします。