ベジャール、ブッチャー、本栖湖

22日亡くなったM・ベジャール氏の作品はその昔上野で何本か観させられた(経緯にはあえて触れず)。ベジャール死去にあたって東京バレエ団の高岸さんが毎日新聞の記事でこんなことを言っていた。「 日本人として初めて『ボレロ』のメロディーを踊らせてもらうなど、常に実力以上の役を与えられてきた。ベジャールさんに世界のひのき舞台という赤い円卓に載せられ、育てていただいたようなもの」。泣かせる追悼だ。
ベジャール作品はどうにも肌に合わない。ことに小林十市(小さんの孫、花緑の兄)が日の丸の鉢巻きを締めて見得を切った「M」(だったかな)なんかはその場で席を立つ寸前だった。「春の祭典」もだめ(舞台で性交すんなよ)。「ザ・カブキ」なんかはとんでもない。唯一ベジャール版「ボレロ」だけは素晴らしいと思う。私が観たことがあるのは高岸直樹と首藤康之、それにシルヴィ・ギエムの「ボレロ」だけど、どれにも圧倒されて観客席でぷるぷる震えた。J・ドンの「ボレロ」を生で観たかったなあと悔しい。
昨日はその「ボレロ」を開場前のBGMで使うプロレス団体、IWAジャパンの興行を観に行った。初っ端の低く流れるフルートで振り向かせ、どんどん盛り上がって最後にドッカーンとくるこの曲は、まさに理想的なプロレス興行の流れそのもので、前煽りのBGMには最適だ。「ボレロ」はIWAジャパンの専売特許だと思っていたが、他のプロレス団体でも使っているのに出くわしたことがあり、作曲者ラヴェルはプロレス者だったんだなと納得した(違うか)。
昨日のIWA一番の注目は、「ダンプ松本&アブドーラ・ザ・ブッチャー&サソリ vs. 米山香織&阿部幸恵&松田慶三」というおそらく最初で最後のものすごいカード。ダンプとブッチャーが組むんですよ。そりゃ最凶だって。黒い呪術師ブッチャー(安藤忠雄と同い年)の入場テーマ「吹けよ風、呼べよ嵐」が流れてきた時点で私はほとんどできあがってしまっていた。
試合内容は予想通りぐちゃぐちゃで、ほとんど試合と呼べるものではなかった。試合開始のゴングと同時に、慶三がブッチャーに襲いかかって額から流血させたのは予想外で「え?」という感じ。激怒したブッチャーはもちろん正調フォーク攻撃で何十倍にもお返しし、リングの上はあっというまに凄惨な地獄絵図と化した。ブッチャーは血ダルマの慶三へさらに空手モーションからの地獄突きも繰り出して、会場は阿鼻叫喚、大興奮のるつぼである。
いっぽうダンプはJWPの2人組を相手にせずまとめてバーンと蹴散らし、極悪同盟サソリの動きも職人芸だった。結局どっちのチームが勝ったのかまったく覚えていないがそんなのどうでもいいことで素晴らしいプロレスだった。ラヴェルも本望だろう。
本当は本栖湖へニジマス釣りに行こうかと思っていたけど、ブッチャーにしておいて大正解だった。