友人の新車で雨の合間の中央高速を走っていく。10年来のこの友人は歴史好きのバンドマンで二児の父である。今日もやっぱり車内にはなんかよく分からない妙なプログレみたいなのが低くかかっている。いい人なんだけどな。八王子あたりで『フライの雑誌』第77号の寄稿者さんから電話をもらい、最新の本栖湖情報をいただいた。どうやらすっげえことが我々を待っているらしい。
いつもの浜に着いた。小雨微風でさざ波、状況はいい。心ワクワクで支度していたら、スペイのおじさんが後から浜に降りてきて私のすぐそばに入り、あまり上手ではないペリーポークを始めた。ぐぼぼぼっ、ぐぼぼぼっ、とものすごい。ときどき「うむ、失敗シタ」とか大きな声で独り言をいうので、電車の中の携帯電話よりも気になる。
こんな静かな湖であれをやられては今日私がやろうと思っている釣りはできない。申し訳ないけど、練習だったら浜は広いしもう少し離れてやってもらえませんか、と言ってやろうかと思ったがやめた。友人は「減水しているからバックスペースはたくさんあるのにね」と言っていた。
山側をストーキングして歩いていくと、足元のカケアガリに巨大なマスを発見した。尾ヒレの先が真っ黒でギンギンに尖っている、ひょっとしたら60あるかもしれないやつだ。あわててキャストしたがまったく無反応で、悠然と岩陰に消えていった。ティペットの先のフライを確かめるために水から上げると、滴を垂らしながらフライがぶらぶら風に揺れた。こんなのんきなハリで釣れるわけないよね、とがっくりきた。