ユーミンはどこへ。

よんどころない事情により、解禁直後だというのに雪国へ行ってきた。いま私が興味あるのは川とヤマメで、雪とかゴンドラはどうでもいいのだが、これからの家庭生活を幸せにすごすには欠かせないミッションだと判断した。

朝早くオレンジラインの中央線に乗り、荻窪のソープランド看板を右手に見て、阿佐ヶ谷のラブホテル前を通過。東京駅から90分の新幹線移動である。トンネルを抜けると本当に雪国だった。って今まで何万人の人が口にしたフレーズだろうか。なんと、新幹線の駅の改札とゴンドラが直結していた。まるで未来都市みたいだ。コインロッカーがパネルにタッチすると数字が現れる液晶デジタル式で、しかも一日1000円もとられるのにはくらくらした。

こういうところへ来るのは、ほぼ20年ぶりである。恥ずかしながらバブル世代なもので、こういうところには常にユーミンの音楽が流れているものだと信じ込んでいた。やっぱりBGMは「恋人はサンタクロース」なんだろうな。あとはWham!の「ラスト・クリスマス」かな。がんばって「ロマンスの神様」までは知っている。

ところが、ゴンドラに乗ってたどりついた現代21世紀のこういうところには、ユーミンの残り香すらなかった。「私をスキーに連れてって」を真似てトレイン走行しているスキーヤーもいなかった。音楽は妙なヒップホップ系の日本版で、腰履きのボーダーが場内いたるところをずるずるとズボンの裾を引きずって、だらしなく歩いていた。時代はすっかり変わっていたのである。おれこの20年間、釣りばっかりしてきたから、こういうところがこんなことになっていたなんて、全然知らなかった。しばし呆然。

ドクターモローの島に迷い込んだフライマンは(例えが古いよ)、板を借りるのだけはかたくなに拒んだが、それでもソリ遊びなどして、普段からは縁遠いたいへんに楽しい一日をすごした。コースとコースとの間をつなぐ初心者用のキャタピラ雪上車にも乗らせてもらい、バージンスノーの木立の中をゴリゴリと進んだ。この乗り物には前から一度乗りたかったので、またひとつ小さな夢が叶った。長生きしているといいこともある。

途中、雪に埋もれた沢にかかる橋を渡るとき、条件反射的に下をのぞきこんだ。わずかにのぞく水面にライズはなかった。分かっていたけどね、と欧米人のように口角を上げて肩をすくめてみた。

帰路の湯沢駅では、川岳軒の「牛(ぎゅう)ーッとコシヒカリ弁当」というのを奮発した。これがたいへんにうまかったことは特筆しておきたい。魚いないんだからせめて弁当くらいはうまいものを食べたかったのでよかった。ここらへんのことは次号の『フライの雑誌』で全36ページに渡ってくわしく報告する予定である。(ウソ) 

こういうものに乗ってライズを探しに行った。
ライズはなかった。