一投目でいいのを釣った。

「新鮮なヒラスズキの刺身が食べたかったなあ。」

実家に戻った僕が風呂に入っている間、お父さんが晩酌しながらこんなことを言っていたと弘子が教えてくれた。

「けっこう、期待していたみたいよ。」

〝釣りの仕事で生計を立てています。〟などと豪語していたくせに、釣りに出かけて手ぶらで帰ってくるとは、情けない。こんな釣れない男にかわいい娘を預けて大丈夫なのか。やっぱり娘はやれん! となったらどうしよう。

僕の中で何かがかたまった。

(『山と河が僕の仕事場 頼りない職業猟師+西洋毛鉤釣り職人ができるまでとこれから』(牧浩之) 32頁)

分かる、分かるなあその気持ち。という一日だった。

わたしは希代の晴れ男であるが、ちょっと晴れが効きすぎた
漁協のエサ釣りのおじさんが来た。「この上ちょっと釣っていい?」と仰るので、どうぞどうぞと見ていたら、一投目でいいのを釣った。しゃ、写真撮らせてもらっていいすか。「魚? やるよ」。いや、いらねっす。
ごくたまに水面を滑走するこういうのに、深いところからいきなりボンッとライズしてきて食って、前とは違う場所へサッと隠れるという、いちばんやっかいなパターン。フライに出させたとしてもまずハリ掛かりしない。うへえ。
こういうときはオポッサムをハックルにした、ストレッチ式アイカザイムが効くのだ。抜群に使いやすく極めつけによく出る。さいきんこういう使い方のできるフライを、〈オルタナ系〉と個人的に呼んでいる。
釣れたー。もう釣れないかもしれないから一応写真撮っておこうかなあ、と縁起でもないことを思って写真撮ったら、本当にこの一匹しか釣れなかった。うへえ。
フライフィッシングの雑誌を15年くらい作ってるのに、ヤマメの1匹も釣れないなんてなあ。
この日、期待のオオマダラが何匹か水面から飛び立ったのを見た。食えよ!と念じたが一匹も食われなかった。帰宅して『水生昆虫アルバム』を読み返した。「何匹か飛んでた」くらいじゃ全然お話しにならないっすよねって感じ。いい歳こいてヤマメの1匹も釣れないなんてなあ。
重版 山と河が僕の仕事場|頼りない職業猟師+西洋毛鉤釣り職人ができるまでとこれから(牧浩之著)
新刊 『山と河が僕の仕事場2 みんなを笑顔にする仕事』(牧浩之著)
第111号(2017)よく釣れる隣人のシマザキフライズ とにかく釣れる。楽しく釣れる。Shimazaki Flies すぐ役に立つシマザキフライの実例たっぷり保存版!
 いつも思い通りに釣れるならこんな本も作ろうと思わないしなあ。申し訳ないですがAmazonさんでは発売と同時に品切れです。追加分予約受付中です。
新装版水生昆虫アルバム(島崎憲司郎著)
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