今年は3冊しか出せそうもありません。

群馬県安中市の「フライショップ アンクルサム」の小板橋さんと長電話。日本随一のバンブーロッド常設展示店であるアンクルサムさんには、過去も何回か取材させていただいて、記事にもしてきた。

アンクルサムさんの広いとは言えない店内に、ズラリ並んだ100数本のバンブーロッドの偉容にはじめて触れた方は、みな一様に感動する。店主小板橋さんのなんとも言えないほのぼのした、しかし奥底に通った筋はぶれない上州人なお人柄とあいまって、知る人ぞ知る超ユニークなお店だ。関東ばかりではなく、遠くは岐阜や東北からもアンクルサムを目指してお客様がやってくる。一度行ってみたいんです、と言う方も多い。なにしろこの時代に通信販売をやっていない。「お客様の顔を見たいんです。勝手なこと言ってごめんなさい」(小板橋さん)というのがその理由だ。

『フライの雑誌』にしてみれば小板橋さんは取材の相手先で取引先で、20年近くにわたって誌面へ広告もいただいている間柄だ。でもなんとなく個人的には小板橋さんには〝地域の年上の先輩〟というイメージがしっくりくる。いくつになっても不安定な自分がふらふらゆらゆらするときに、電話で小板橋さんのいつも変わらないトーンの声を聞いたり、お店に行ってビルダーさんたちの念のこもった大量のバンブーロッドに囲まれたりすると、初心に帰れてホッとするのである。

今日は、ほとんど小板橋さんのオンステージとなっているネット上の「マルタの雑誌」(『フライの雑誌』の番外地)にそろそろ新しい記事を寄せてくれませんか、というお願いの電話だった。あれこれ楽しく話しているうちに、小板橋さんがふと「あの、次の『フライの雑誌』はいつごろ出るんですか」と言った。

最新の『フライの雑誌』第97号は7月中旬に出ているので、今度の第98号は本来なら10月中旬に出ていなければならない。でも今年の上半期は『文豪たちの釣旅』『淡水魚の放射能』という素晴らしい単行本を2冊も発行したし、私が釣りへ行ったりなどいろいろいそがしかったので、第98号は最初から発行日を遅らせるつもりでいる。こういうときの私は手慣れたもので、「あ、すみません。本当なら10月中旬なんですが半月遅れて10月末くらいです。」と、サラリと答えた。すると小板橋さんは、「あのう、そうなると、今年の『フライの雑誌』は4冊じゃなくて3冊しか出ないってことでしょうか。」ときた。

え!? と思ってあわてて『フライの雑誌』の裏表紙をたしかめてみた。たしかに2012年は、第96号が4月に出て(その時点で出遅れてるじゃん)、第97号が7月に出て第98号が10月末に出るとすると、どう考えても3冊しか出ない。季刊なのに。そんな大事なことに編集発行人が今ごろ初めて気づくのもどうかと思うが、事実なので仕方ない。いちおう心の中は〝うわー〟となった。

小板橋さんから「一年に3冊しか出ないのは初めてじゃないですか」と追い撃ちされ、「いいえ、じつは以前にも3冊しか出なかった年は何回かあるんです」と言い訳して、破れ傘を自分でさらに破ってしまった。もう逃げ出したい感じ。

そうしたら小板橋さん、電話のこちら側の私の動揺を感じとったのか、いつになく優しすぎる口調で、「3冊しか出ないのはざんねんですが、あんまり無理はしないでくださいね。むりやり4冊出さなくてもいいですから」。

…ああ、今すぐ松井田へ飛んで行きたいです。

アンクルサムにある「白戸ロッド」女竹/ノードレス/7’3” #2-3/27,000円〜
第61号に「ウナギの寝床にゆる〜く並んだバンブーロッド」という記事を書いたのだが、思えばかなり失礼なタイトルだった
小板橋さん。「マルタの雑誌」に「中山道の釣旅」を連載中