第102号の発行があまりに遅れているのですっかり疲れてしまい、すきを見て逃亡したとばかり思っていた編集長が発見された。
昼すぎに近所の小学生が編集部のピンポンを押して教えてくれた。「玄関にアゲハがいますよー」。(なんてのんびりしてる町だろう)。玄関に出て見れば、たしかに編集長だ。サナギから抜け出たあと、ブロック塀にはりついて羽根を乾かしていたようだ。
抜け殻のすぐそばなのに、今朝わたしは編集長がいるのに気づかなかった。通りすがりの小学生に教えられるとは情けない。相変わらずわたしの観察力の詰めは甘い。こんなことだからフライフィッシングも上手になれないし、雑誌の校正ミスも多いのだろう。人生つらいな。
いずれにせよ、「逃亡した」なんて決めつけて編集長にわるいことをした。
羽化していただけだったんですね。
羽根を乾かし終えた編集長は、青葉を揺らすそよ風のように壁をふと離れ、そのままふわりと舞いあがったとおもうと、梅雨の合間のあおぞらのとおくへ消えていった。
わたしはそれを見上げていた。
編集長は羽化した。第102号の入稿はまだ終わっていない。
どうしよう。(明日へ続く)