先生はもうすっかり私を「キーン嫌いな人」として認知してくれたみたいだ。今日は治療の始めに治療台の右隣に立って私の顔をのぞきこみ、
「ごめんなさいね、少しキーンしますよ。」
と言って来た。
私は左側にアシスタントの女の子(先週「私もキーン苦手なんです」と首をぷるぷるしていた子)が控えているのを確認してからこう言った。
「ついにフェーズ5ですか。」
先生と女の子と両サイドでふたりしてのけぞって笑ってくれて、少しうれしかった。最新のネタをしこんできてよかった。ここは医療機関だがいいのかこういうことで。
私「キーンは耳をふさいでもダメだということがこの間分かりました。」
先生「そうですね、音というより振動ですからね。」
私「大丈夫、ぼく大人だから。」
またまた先生と女の子とふたりしてのけぞって笑ってくれた。
でもあそこは、
「大丈夫、ぼくオヤジだから。」
と言った方がもっとウケたかもしれない。失敗したなあ、チェッ。とそのあとすぐに始まったキーン地獄により遠ざかっていく意識の底でかすかに思った。