●「内水面漁業の振興に関する法律」の基本方針に関するパブリックコメントが、ひそかに募集されていた。意見・情報受付開始日2014年09月09日、意見・情報受付締切日2014年09月15日で、特段の広報活動も行われていなかった。ほとんどの一般の釣り人はパブコメ実施の情報を知らなかったはずだ。あきらかに広報努力不足である。よく指摘されているように、パブコメ制度がもはや形骸化している実態はさておき、実施する以上はきちんと周知しなくてはいけない。
●今回の「内水面漁業の振興に関する法律」の基本方針に関するパブリックコメント募集については、『フライの雑誌』編集部はぎりぎりで気づいて何とか意見提出できた。以下にその提出内容を紹介する。
水産庁増殖推進部栽培養殖課 御中
内水面漁業の振興に関する基本的な方針案についての意見をお送りします。
基本方針の全体について:
水産庁は水産基本計画で、遊漁者を行政施策の対象として規定している。内水面漁業は遊漁者の存在をなくしては成り立たないと過去に発言している。
内水面漁業振興法の条文には、「基本方針は、水産基本法第十一条第一項の水産基本計画との調和が保たれたものでなければならない」と明記されている。しかし、今回の「内水面漁業の振興に関する基本的な方針案」には、「遊漁者」を直接的な施策対象とした文意があまりに少ない。「内水面漁業の振興に関する基本的な方針」は、遊漁者の存在を明白にくみこんだものでなくてはならない。P.1 1行目:
「河川等内水面水産資源の生息環境の変化」とあるが、内水面水産資源の生息環境は「悪化の一途をたどっている」と表現するのがより事実に近い。基本方針を定めるための現状認識が不適切ではないか。P.7 -5
「自然との共生及び環境との調和に配慮した河川整備の推進」について、「河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境等を創出することを全ての川づくりの基本として河川管理を行う」という記述には賛同する。
河川漁場の環境の悪化をかんがみるに、国交省などの河川管理者の河川管理計画へ、環境保全の視点から水産庁が河川利用者の代弁者として積極的に参画することが喫緊の課題だ。その意志と具体的な施策を明記するべきである。P.9 -3
「多面的機能の発揮に資する取組への支援」について。河川利用者は漁業組合員だけではない。地域住民および、水面を利用している遊漁者が取組む事業も、本法律で支援するべきだ。その旨を基本計画へ明記するべきである。P.11 -6
「内水面は、遊漁を始めとするレクリエーションを通じて国民が憩い、自然とふれある場である」はそのとおりである。日本の内水面漁業は、漁業に直接的に専業従事していない一般遊漁者が支えているのが実態である。
今後の内水面漁業の振興を図る上では、一般遊漁者による遊漁、つまりスポーツフィッシングの振興が欠かせない。水産庁が作成した水産基本計画には「スポーツフィッシング」の文言が明記されている。内水面漁業振興法の基本計画には、「スポーツフィッシングの振興」という文言を加えるべきである。
内水面漁業振興法では、漁業組合の他に、スポーツフィッシングを推進するNPO、任意団体、遊漁者個人も、直接的に支援する施策がとられていくべきである。その旨を基本計画に明記するべきである。以上、どうぞよろしくお願いします。
●じつは、情けないことに、『フライの雑誌』編集部が本パブコメの募集を知ったのは、締め切り日9月15日の夜23:30であった。まさにこの「内水面漁業の振興に関する法律」に関して、翌9月16日に水産庁へ取材することになっていた。直前の情報確認のために念のためワードを検索してみたところ、「パブコメやってるんじゃん!」と気づいた次第である。その時点で、締め切り時間まであと30分しかなかった。
あわてて、手元にプリントしてあった「内水面漁業の振興に関する法律 基本方針」をエンピツ片手にチェックを入れながら書いたのが上の文章だ。文章もガタガタだし、支離滅裂で恥ずかしい。
●この文章の中で、わたしは大きな失敗をした。「P.11 -6」について、わたしは〈水産基本計画には「スポーツフィッシング」の文言が明記されている。〉と記述している。が、2012年に策定された最新の水産基本計画を、どうひっくり返しても「スポーツフィッシング」の文言は出てこない。2006年に水産庁が出した「日本の遊漁」という小冊子に「レクリエーショナル・フィッシング」の文言が出たことが頭にあったために、つい混同してこのように書いてしまった。ぜんぜん違う話であった。むしろ、水産基本計画に「スポーツフィッシング」の文言が書かれたとしたら、とんでもない革命的な事件である。
●パブリックコメントでは、意見募集を締め切って一定期間の後に、「いただいたご意見のまとめ」が発表されるのが常だ。ひとつひとつの「意見」に、担当者からの返信意見が書かれることもある。上記、わたしの大きなバカミスの意見について、たとえばわたしが行政庁の立場からの意見をつけるならば、〈水産基本計画には「スポーツフィッシング」の文言は記されていません。〉と、ひと言書いておしまいである。あーあ、といったところだ。あわてていたとはいえかなり情けないことになってしまった。
●ていうか、まさにこの「内水面漁業の振興に関する法律」の主旨を取材に行くアポイントを、編集部は水産庁資源管理部漁業調整課の沿岸・遊漁室から、かなり以前にいただいていた。だったら事前にひとこと「内水面漁業振興法のパブコメあるよ。」くらい、ささやいてくれてもよかったじゃん、と駄々をこねたい気分である。パブコメ募集の担当は増殖推進部栽培養殖課だ。部署が違うと言うかもしれないが、一般国民にとっては水産庁は水産庁である。省庁ごとの縦割り行政の弊害とはよく言われるが、同じ省庁内での情報共有はきっちりやってほしい。(ちょっと八つ当たり感あるかもしれない)
●水産庁「釣人専門官」は、すべての釣り人に公開された国の窓口である。釣人専門官新設後の2004年の本誌第67号でのロングインタビュー記事をはじめとして、『フライの雑誌』ではたびたび記事化している(第67号、第70号、第73号、第74号など)。今日9月16日、前任の中川秀樹さんが別部署へ異動し、新任の釣人専門官が着任した。編集部では今日の午前中に霞ヶ関へうかがって、新しい釣人専門官にお会いしてきた。新任釣人専門官は、山田源太さん(28歳)。自らも釣り人であるとのこと。とりあえず、『フライの雑誌』のバックナンバーの中から、釣人専門官絡みの記事をざーっとコピーして手渡ししてきた。ほとんど押し読めである。釣人専門官は釣り人のために働くのが仕事である。課題と目的意識をもって自分で仕事を作ろうと思えば、いくらでも仕事が山積みになっている、そういうスタンスのポストだ。山田さんはこれから多くの場面で、釣り人との接点が生まれてくるはずだ。(前任者の中川秀樹さん、2年半の在任期間たいへんお疲れさまでした。)
●今回新成立した「内水面漁業の振興に関する法律」に関して、現時点では釣り関係の雑誌・メディアで、ほとんど『フライの雑誌』しか注目していない。わざと分かりづらく書いているとしか思えない法律文を読んだだけでは何のことやら分からない。水産庁の解説付き「あらまし」も、だから何なのかと普通のひとが具体的に理解するのはなかなかたいへんだ。
本日、本法律の釣り人側との調整担当である漁業調整課内水面漁場管理官の澤田龍治さんに、直接色々とレクチャーをいただいてきた。「内水面漁業の振興に関する法律」の精神と一部の制度をうまく有効活用すれば、わたしたち釣り人にとって、より快適な釣り場づくりに役立つ法律的な裏支えになるかもしれない。釣り人にも利用可能な今までになかった制度が、この法律で新しく生まれたと言っていい。
そのあたりは『フライの雑誌』次号第103号で具体的事例を示しつつ、くわしくまとめます。深く突っ込んだ、本誌でしか読めないコアな記事になると思います。どうぞご期待ください。(堀内)