ブーメランとベイブレードとフライリール、回転する悦楽。

ブーメランの出奔

このところブーメランがちょっとした個人的ブームである(マイブームなんて言わないよ)。うまく投げるとくるくる回って遠くまで飛んでゆき、律儀に手元に帰ってくるのがなんともかわいらしい。帰ってくる理屈はちゃんとあるのだが揚力だかなんだかで私には分からない。とにかく帰ってくるんだからいいじゃん。

昨年ケアンズの田舎で地元アボリジニのブーメランを投げた時は、大空へポーンと出奔していったきりで、こっちもふうんこんなもんかくらいだった。ちょっと前に宇宙船の中でブーメランを投げて無重力でどうこうという遊びがあったが、あれにもまったく興味がわかなかった。ところが今年に入り、なんとなくウレタン製のハイテクブーメランを入手して投げ、みごとに帰ってきてくれたときにびっくりした。世の中にこんなにオモシロいものがあったのかと。

ついつい室内用、屋外用といくつか集め、紙ブーメランも製作した。『フライの雑誌』の次号89号の校了が終わった今は自慢じゃないが、私の休日は釣りに行くかブーメランを投げているか、どっちかだ。

左の二つは室内用。中央上の穴あきタイプがいちばんぶっ飛んでよく戻る。

6歳児に土下座はちょっと…

一昨年から去年にかけては子供用オモチャのベイブレードで遊んでいた。専用スタジアムが人気のため市場で手に入らなかったのでメーカーに交渉してダイレクトに購入。近所の子どもらを集めて自らベイトーナメントを主催し、「ゴー、シューッ!」とバトルした。私は常に最新式の強いベイを投入していたため連戦連勝だった。大人の財力をなめてはいかんよ。

しかしトーナメントにとあるサッカー少年が登場してからは、ピープルズチャンピオンの座を奪われてしまった。なぜだか分からないが勝てない。なんど挑戦してもその度ごとに退けられた。スタミナタイプのくせにバーンと弾いたり、アタックタイプのくせに粘り腰だったりと、神がかり的に強かった。あいつイチローみたいになにかを持っているんじゃないか。将来が不安だ。

〈チャンピオンに挑戦する時は土下座して「挑戦させてください」とお願いしなければならない。チャンピオンはいつ何時でも「いいよ」と受けなければいけない〉、というルールを私は自分で決めていた。私がチャンピオンでいる間はとても気分が良かった。だがサッカー少年の登場以降はこのルールが裏目になった。6歳児に何回も土下座するのは最初はがまんできたがだんだん疑問がでてきた。同時に私のベイブレード熱も急速に冷めていった。

「Many Happy Returns!」

そしてブーメランである。ブーメランに関しては私はほんの駆け出しだから、今は投げるだけで楽しくてしかたないレベルだ。河原でポーンとスローイングし、きれいに戻ってきてキャッチできたときは鼻の穴がふくらむ。土手の上からたまたま誰かに見られていたりすると「どうだ」と叫びたい気持ちだ。魚を釣ったら思わず周りをキョロキョロ見回しちゃうのと同じ心理である。

考えてみるとベイブレードもブーメランも同じ回転体である。くるくる回っていること自体が不思議だし、美しい。フライリールも回転体だ。自転車のホイールも好きだし、私は回転体が好きな人なのだと不惑を過ぎて初めて知った。『フライの雑誌』の第67号(2004年11月)では「私の好きなフライリール」という特集を組んだ。サブタイトルは「回転する悦楽」というのだった。この67号は中身はそれほどうまく出来た感覚はないのだが、売り切れて今はもう一冊もない。でもいまだに注文がある。

ブーメランの愛好者は「Many Happy Returns!」を世界共通の合言葉にしているのだそうだ。優しくて前向きでいい言葉である。自発的なキャッチ・アンド・リリースの精神にも通じると思う。

サンスイH氏によると「生煮えのまま出しちゃった感じ」の第67号。特集◎私の好きなフライリール
『フライの雑誌』最新第89号(5/31発送)より。もうすぐ公開。