奥多摩町入川谷にある東京都奥多摩さかな養殖センター(旧東京都水産試験場奥多摩分場)へ。研究員の加藤憲司さんから、魚と人、山や川と釣り場についての興味深い話をたっぷり伺った。
加藤さんには『フライの雑誌』第78号にもご登場いただいた。「外来種と人の暮らし、奥多摩、研究者としてまだ見ぬ宝石。」と題した記事のなかで、イワナとヤマメの自然交雑種「ウンネェ」を奥多摩の渓流へ追った加藤さんの若い日々のお話は、印象的だった。読者からの評判もとてもよかった。今回も前回にもまして意義深い取材となった。『フライの雑誌』次号で紹介する。
誌面には載せないかもしれないエピソードを一つ。奥多摩のとある沢には、人知のおよばない〝魑魅魍魎〟が、おそらくいる。研究のために奥多摩へ通い込んでいた加藤さんは、その沢に何日となくビバークしたが、年に一二度、明らかに生き物ではない何かの気配を、薄いテント地1枚隔てた漆黒の闇の中に感じたという。
加藤さんが〝何か〟に遭遇した沢へは、私も行ったことがある。苔むした大岩が累々と連なり、青黒い水が眼下に渦を巻いていた。私は沢の入り口に立ったまま一歩も進めなかった。当日同席したベテラン釣り師のK氏も、奥多摩にはどうしても足を踏み入れられない沢が何本かあると言う。
瓜生卓三氏の『奥多摩町異聞』『檜原町紀聞』を、中学生のころ図書館で読んで、大きな衝撃を受けた。渓流釣り師としての私の原点は奥多摩にある。奥多摩は深い。もう一度読んでみよう。