フライの雑誌社の新刊『桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』が印刷所からついさきほど届けられた。サクラマス本の企画をたててから幾星霜。ようやく、本当にようやく完成した。
サクラマスの過去と現在、そしてこれからについてひとつの考え方をまとめたという点において類書がない
本書あとがきにある著者の言葉通り、謎多き美しいマス、サクラマスをここまで掘り下げた単行本は今までなかった。サクラマスは日本のマス族の最後のファンタジーであることを思うと不思議なくらいである。
執筆中、サクラマスへの著者の熱は筆が進むにつれて加速度的に高まってきた。それを充分に受け止めて返球するだけの力量が不肖こちらにあったとはいいがたい。それでも「これまでにないサクラマスの本を作る」という大きな仕事の一端を、編集者としてほんの少しだけ担わさせていただいた。著者のうしろについて共に高い山と深い谷を越えてきたわけだ。できあがった本を手にして、今はなんともいえず晴れがましい。
カバーの写真は、岩手県気仙川を遡上するサクラマスの群れである。気仙川には今、海との繋がりを断ってサクラマスを絶滅させてしまう津付ダムという穴あきダムが作られようとしている。その不条理を何とかしたいという撮影者の想いまでもが映り込んでいる奥深いカットは、印刷をお願いした東京印書館さんの担当者さんの尽力で、ふかい碧の川面に桜色のマスたちが浮かんでいるかのような、幻想的で美しいカバーになった。
電子書籍の華々しいデビューがかまびすしい昨今でも、しっとりとした本の魅力はまたそれとは別のものである。ぜひ『桜鱒の棲む川 ─サクラマスよ、故郷の川をのぼれ!』を手にとってください。そして、本を手にとることの癒しと喜びを感じてください。