〝見ちゃった〟そうだ。そのすぐ後に、同じ場所へ知らずに釣りへ行ったほかの友人が湖岸を撮影したら、明らかにやばそうな奇妙な白い斑点がたくさん写っていた。M湖はむかしからあちら系の目撃談にはこと欠かない。フライマンならいわば慣れっこになっているはずである。が、
今回は、さいきんその場所で人が死んだらしいのが分かっているので、いま私の仲間内では「あのポイントへイブニングに行くのはやめておこう。」という話になっている。そこはだれもが知っている第一級ポイントだ。ぼくらが行かなくてもきっとだれかが知らずに行っているだろうとは思うのだが。逆に興味がある方は、そういうのに出会えるチャンスだ。
さて、このところ心理ゲーム系が流行しているのは、本当は見たくないけど見えないものを見たくなる人間の本能の琴線に触れるからだろう。不透明な世の中だからせめてわずかな心の頼りにしたいということもあるかもしれない。「心理ゲーム」でググルと400万件とか出てくる。心理ゲーム本もたくさん出版されていて、スナックのママが喜びそうな男と女のラブゲームみたいな本もいろいろある。
そういう心理ゲーム本はたいてい、ブームに便乗しようとする版元が二泊三日くらいでザザッと編集したんだなというのがすぐに分かる粗製濫造本であるケースが多い。ただ、ポプラ社から出版された『誰も知らないあなたの説明書 本音や相性が怖いほどわかる 心理ゲーム50』』は少しちがう。
内容はというと、例えば「設問01 玄関の現実:一人暮らしをしているあなたのマンションにたくさんの友だちが遊びに来ています。玄関の様子は次のどれでしょう」。答え:a.ぐちゃぐちゃ b.一足だけ揃っていない c.半分だけ揃っていない d.すべて整然としている。この答えからは「あなたの乱交愛傾向がわかります」とのことで、a.を選んだ人は「乱交愛傾向がかなり強い」のだそうだ。これは女性を対象に書かれた本だが、ふつうの女性はそゆことにはあまり興味ないのではないかと思っていたので、悩んでしまった。むかしのあの子の玄関はどうなっていたっけか。
この本はとにかくブックデザインが秀逸だ。本の内容は、マゾッホとかドゥルーズとかを引用して文化の薫りをくわえつつも、そゆこととかもっとえぐいのがバンバンで、電車のなかで音読するのはきっと無理。でもしかし、細部まで気を使われたデザインのおかげで、堂々とひざの上に置いて黙読できる。何より、ふんだんに使われたイラスト群のオリジナリティあふれる気品の高さはめったにない。このイラストレーターはただ者ではないことがすぐに分かる。一本の線をひいただけで素人と玄人の差が歴然と出るのが絵の世界だ。それだけキビシい世界とも言えるわけで、私などは個性的な絵の描ける人にはものすごく憧れるのである。絵というものには時に文章よりも知性がにじみ出るものだ。
一介の親父系フライマンにすぎない私がなぜこのようなオシャレな本に出会えたかについては、『フライの雑誌』第62号の『Shimazaki world 9』をご覧ください。
M湖のバケ話はかなり無理やりなマクラだった。でも〝見ちゃった〟のは本当です。そろそろM湖はドライフライのベストシーズン。あそこはオバケも出るけどモンカゲロウも出ます。