●自民党政権になってから、議員立法で新たに「内水面漁業の振興に関する法律」(内水面漁業振興法)が持ち上がった。今年6月に衆参両院で全会一致で可決。すでに施行されている。
なぜ今年になって内水面漁業の新法なのか。民主党政権時代に冷遇されていた全国内水面漁協連合会(全内漁連)が、自民党政権の復活により、政治的に再登場したという印象だ。
法律の中身については、条文を読んでもよく分からない。本誌編集部では過日、霞ヶ関の水産庁へ行って、実際にどういう法律なのかを取材してきた。
●内水面漁業振興法の「二」基本理念は以下の通りだ。
内⽔⾯漁業の振興に関する施策は、内⽔⾯漁業の有する⽔産物の供給の機能及び多⾯的機能が適切かつ⼗分に発揮され、将来にわたって国⺠がその恵沢を享受することができるようにすることを旨として、講ぜられなければならない。
たいそうご立派なお言葉で、頭を垂れて拝聴する。
●2014年9月28日、本誌でも継続的に紹介してきた山形県小国川の小国川ダムについて、地元の漁業権を持つ小国川漁協が、臨時総代会で「ダム建設承認」の決議をした。
この間、ダムを作りたい山形県行政と追従する人々は、ダム反対の小国川漁協を切り崩すために、様々な策動をくりだしてきた。その過程で、小国川漁協の前組合長が自殺した。
ダム反対を貫いてきた前組合長が亡くなった後、漁協の新組合長と執行部は、山形県行政と金銭補償を前提とした交渉に入った。そして今回の総代会での決議にもちこんだ。票数はダム建設に「賛成80票、反対29票」だったという。
地域の未来は地域住民が決める。ただし漁協は住民の総意を代表しない。漁協は川を勝手に殺せない。
●内水面漁業振興法の制定にあたり、水面下で活動していたのは、全内漁連とその系列議員だ。全内漁連の代表理事会長は宮腰光寛自民党衆議院議員である。
本年度(平成26年)、水産庁が持っている内水面漁業に関する予算額は、約2.6億円だ。来年度(平成27年)、水産庁は内水面漁業に関して4億円を要求している。国庫からの補助を加えた実際の事業規模はさらにその倍。
税金4億円の使い道を水産庁担当部署に聞いてある。出てきた言葉は、外来魚対策、冷水病対策、カワウ対策、ウナギの資源量調査。ウナギ以外は全内漁連の既存課題だ。全内漁連と系列議員は、してやったりというところだろう。
●といっても、水産庁全体の予算は今年度で2290億円だ。たった0.1%の2.6億円にすぎない内水面漁業の予算は本当にしょぼい。ダム一発で建設費用は何百億円、何千億円もざらだ。でかいダムなら水産庁の予算をまるごと吞み込む。
民主党政権時代のダム見直し政策によって、2010(平成22)年に農水省が公表した農業用ダムの総工事費は約1兆5千億円だった。自民党政権になって、凍結していたダム事業がぞろ復活しているのは周知のとおりだ。日本経済は借金まみれで、それで消費税も上がっていくんじゃなかったっけ。
●全内漁連さんは、川や湖の漁業者の集まりのはずだが、河川環境を決定的に破壊するダムへ彼らが先頭に立って反対した話は、聞いたことがない。全内漁連さんはなぜダムに反対しないのか。
誰かが誰かの手に日本を取り戻すために、ダムが必要なのだろう。
いま分かっているのは、お説ごもっともな内水面漁業振興法は、ダム建設の阻止に関して何の役にも立たないことだ。このあたりを含め、『フライの雑誌』次号第103号で、中特集のブチ抜きで掲載する。
政治家と既得権益者に、川を食い物にされている感が強い。