川へ取材に行ってきました。

(春休みなので)

いいかよく聞け。パパは今日取材だから、戸締り火の元交通事故に気をつけるんだぞ。

取材って川でしょ。

そうだ。

釣りじゃん。

なにをいう。取材だ。今の時季の川はどうなってるのかな、とか、虫は出ているかな、とかを調べに行くんだ。

じゃあ、メモを持って行くの?

メモは頭の中に書く。

じゃあ、大きなカメラは持って行くの?

とうぜんだ。

じゃあ、釣り竿はいらないんだよね。調べに行くんだから。

ばかだなおまえは。釣り竿がなければ釣りができないじゃないか。

だって、調べに行くんでしょ。釣りじゃないんでしょ。

浅いなおまえは。パパは釣り雑誌を作ってる人なんだから、釣り竿がなくては仕事ができないじゃないか。

フッ。

なんだそのフッ、は。いいかよく聞け。今パパはこういう仕事しているが、それはいままでの人生の節々で、自分はこの先、たぶんこっちのほうが楽しいんじゃないか、と思う方向を選択してきたその結果だ。得たものは多いが、得られなかったものはそれ以上に多いかもしれない。パパにとって釣りは仕事ではないが、パパの人生そのものなのだ。わかるか。きみにもいつかそういう人生の選択をするときがきっとくる。いいか、チャンスは前髪しか見せない。そのときに迷うな。そしてたとえ失敗したと思っても、後ろを見るな。他人様をうらやむな。すべては自分の選択だ。行き先を選ぶ自由を担保しつづけるにはふだんの心がまえが必要なのだ。わかったか。わかったのか。

うん。よくわかったよ。もうそろそろ取材行けば。

おう。

たくさん釣れるといいね。

はーい。

小さいけど色々思い通りに釣った一匹。フライフィッシングで釣ると一匹一匹の思い出がふかくなる。
というわけでやってきました。小さいけど色々思い通りに釣った一匹。フライフィッシングで釣ると一匹一匹の思い出がふかくなる。
サイズがアップップ。
サイズがほんの少しアップップ。もっとずっと大きいのがライズしていた。次にきた時は覚悟しておいてね。
このあと、深瀬に腰まで入った状態でウェーダーのフェルト底が滑ってスローモーションのように川面へ横倒しになり、グッドタイミングで右のふくらはぎが攣って、カメラバッグを浮きにして三メートルくらい流れて、走馬灯見た。でもそこは年の功で慌てず騒がずカメラも竹竿も人間も無事回収。フライをデッドドリフトするつもりがあやうく自分がデッドになるところだった。もう帰る。
このあと、深瀬に腰まで入った状態でウェーダーのフェルト底が滑ってスローモーションのように川面へ横倒しになり、グッドタイミングで右のふくらはぎが攣って、カメラバッグを浮きにして三メートルくらい流れて、走馬灯見た。でもそこは年の功で慌てず騒がずカメラも竹竿も人間も無事回収。フライをデッドドリフトするつもりがあやうく自分がデッドマンになるところだった。もう帰るべー。
葛西善蔵と釣りがしたい 堀内正徳著(『フライの雑誌』編集人)
葛西善蔵と釣りがしたい 堀内正徳著(『フライの雑誌』編集人)