川島なお美は一貫して川島なお美だった。

わたしはミスDJリクエストパレードを聞きながら、受験勉強するふりして机の下で釣り本や釣り雑誌を読んでるような子供だった。ラジオからはきれいで仲のいい歳上の女子大生のお姉さんたちが選んだ(と思っていた)、外国のかっこいい音楽が流れていた。もし本当に勉強していたとしても頭に入るわけがない。ミスDJの中では千倉真理の声がいちばん好きだった。

火曜日担当の青山学院大学、川島なお美は子どもながらに〝鼻持ちならない女〟だと思っていた。媚びるような舌ったらずな喋り方や、雑誌で見た無意味におっきな目が、生意気なげっ歯類かなにかの小動物のようだった。頭がよさそうなのも思春期の劣等感を刺激した。小僧の自分なんか、ぜったい相手にしてもらえない確信があった。なにがシャンペンNo.5だと。それだけ印象が強烈だった。

だからいまだに青学というと、わたしのなかのイメージの一等賞は川島なお美だ。新日本プロレスの中邑真輔選手がデビューした時に、彼が青学出だと知って「なんで川島なお美?」といぶかしんだ。川島なお美と同じ大学を出たプロレスラーってありえないと思った。今は真輔ファンだけど。

上昇志向たっぷりのミスDJたちの中でも、とりわけ川島なお美のそれは頭抜けていたように思う。「失楽園」以降の川島なお美は、何かというと女優の覚悟がどうとか、魂がこうのと言いはじめた。でも川島なお美が〝女優〟を主張すればするほど、「なに言ってんだミスDJのくせに」と思ったのは、わたしだけではあるまい。川島なお美は女優さんとしてはプロポーションが圧倒的に寸足らずだ。脱げば脱ぐだけ、歳くった自意識過剰の元ミスDJが悪あがきしているように思えた。

当時、川島なお美を助手席に乗せた渡辺淳一の運転する車が、あたりを警戒するようにどこかの旅館から出てきて猛スピードで逃げていった、という様子を面白おかしく書いた記事が「噂の真相」に載っていた。わたしは渡辺淳一が大きらいだった。いくらカネのためとはいえそんなヒヒジジイでいいのか、と関係ないくせに悔しかったのを思い出す。

あんなにきれいで頭のいい川島なお美が選んだのが、なんでよりによって渡辺淳一なんだ、と気にいらなかった。鎧塚さんはいい人っぽくて、本当によかった。

女子大生、アイドル歌手、お笑いマンガ道場、女優、恋、エロ、ワイン、よく知らないけどスイーツ。川島なお美は時代にあわせてブランドを上書きするように生きのこっていった。川島なお美は一貫して川島なお美だった。

先週、それが最後になった記者会見をテレビでやっていたのを、たまたまリアルタイムで見ていた。病気で舞台を降板するのしないの、女優としてどうのこうのと、ワイドショーの記者たちへ相変わらず小生意気そうに対応していた。「あ、川島なお美だ」と思った。

あんな川島なお美は二度とでない。本当にもったいない。

フライの雑誌 105(2015夏号): 特集 日本の渓流の「スタンダード・フライロッド」を考える。/隣人のフライボックス/60年目の養沢毛鉤専用釣り場
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『フライの雑誌』第106号|〈2015年9月12日発行〉| 大特集:身近で深いオイカワ/カワムツのフライフィッシング─フライロッドを持って、その辺の川へ。|オイカワとカワムツは日本のほとんどどこにでもいる魚だ。最近になって、オイカワとカワムツがとても美しく、その釣りは楽しく奥深いことを、熱く語るフライフィッシャーが増えている。今号ではオイカワとカワムツのフライフィッシングを、大まじめに真っ正面から取り上げる。この特集を読んだあなたは、フライロッドを持ってその辺の川へ、今すぐ釣りに行きたくなるでしょう。 新連載 本流の[パワー・ドライ] Power Dry Flyfishing ビッグドライ、ビッグフィッシュ|ニジマスものがたり
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ヘンタイ釣り雑誌とその仲間たちが手招きする、こんがらがった人生の脇道。
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