患者と医者の越えられない一線

田舎のバスは おんぼろ車
タイヤはつぎだらけ 窓は閉まらない
それでもお客さん 我慢をしているよ
それは私が 美人だから
(中村メイ子「田舎のバス」)

もう半年も歯医者さんに通っている。機械の尖った先端がキーンという高音を発しながら口の中に入ってくるのを感じると、文字通り死にそうになる。んが、んが、とよだれがあふれてくるのも情けない。もうこんなところ二度と来るもんか。けれど治療が終わって、次回はいつにしますか、とにこやかに聞かれると、嬉々としてスケジュール表をひらいたりする。それは先生が美人だから。

ただ、もう半年も逢瀬を重ねているのに、なかなか先生との心の距離が縮まらない。哀しいな。だって先生と会話するには、治療の初めと終わりのほんのわずかのタイミングしかないのだ。それは先生が歯医者だから。

先生と私の今日の貴重なコミュニケーション。
「ちょっとキーンさせてくださいね」
「んが、んが。(キーンはいやです。でも先生ならいいです)」

このあいだ気づいたのだが先生はしょうこお姉さんに似ている。