新自由主義社会はきついぞ。

「おい、小学生。このあいだいつもの新聞屋さんから、北海道のじゃがいもとタマネギを買ったよね。あれ一箱1000円で1500箱も売れたらしいよ。」
「1000円で1500箱ぉ? すごいね。」
「1000円で1500箱で、いくらだよ。」
「え。うーん。ゼロが5つでしょ。…15万円。」
「なに。」
「あ、いや、150万円。(様子をうかがっている)…すごいね新聞屋さん150万円ももうかったんだ。」
「ちょっと待て。150万円は新聞屋さんの売り上げだ。」
「売り上げってなに。」
「むぅ。…おい、新聞屋さんがジャガイモとタマネギを作ってるのか。」
「え、なに言ってんの。作ってないでしょ。」
「だったらジャガイモとタマネギはだれが作ってるんだ。新聞屋さんはどこからジャガイモとタマネギを持ってくるんだ。」
「北海道の農家の人が作ってる。新聞屋さんは北海道から持ってくる。」
「そうだ。じゃあ北海道の農家の人に新聞屋さんはいくら払ってるんだ。」
「150万円。」
「おいおいおいおい、それでいいのか。もう一回考えなさい。北海道の農家の人に新聞屋さんはいくら払ってると思う?」
「じゃあ、300万円。」
「おいおいおいおい。壁にぶつかるとすぐに適当なこと言って逃げようとするのは君のわるい癖だ。いいか。新聞屋さんは、お客さんから合計150万円をもらいました。その新聞屋さんが北海道の農家の人に150万円払っちゃったら、新聞屋さんどうするんだ。」
「だめなの?」
「だめでしょうに。あのね。こういう時はだね、さいしょに北海道の農家の人に、ジャガイモとタマネギをこれだけ欲しいんですが、代金としていくら用意すればいいでしょうか、って聞くんです。その答えを聞いてから、自分たちが売る値段を決める。それが世の中のスジというものだ。わかったか。」
「わかった。」
「じゃあ君は、農家の人にだいたいいくら払った結果として、自分はジャガイモとタマネギを150万円で売ればいいと思うんだい。」
「え、そんなの分かんないでしょう。」
「おいおいおいおい。そういうことが今の時点で分からないのじゃ、この先きびしくなる一方の世の中を君は渡ってゆけるのか。新自由主義社会はきついぞ。自民が勝ったら貧富の差は開くばかり。むぅ。いまどきの小学生はこんなものなのかなあ。」
「小学生はみんなこんな感じだよ。」
「いやいやいやいや。君の通っている小学校の経済観念はそんな感じかもしれないけどな。街の小学校に通ってる子どもは、ぜんぜん違うと思うぞ。」
「街ってどこ。」
「街って言ったら、駅のほうのことだ。」
「イオンのあるあたり?」
「むぅ。たしかにさいきん豊田駅前にイオンができたね。」
「イオンがあるところは街というより都会かな。」
「いやいやいやいや。イオンが都会だって言ったら、それこそ都会の子どもに笑われるぞ。」
「じゃあ都会ってどこ?」
「都会って言ったら、世田谷とか、赤坂とか、丸の内とか。…いいんだよ、都会がどこかなんてどうでもいいことは。そんなことよりお前、わるい点数のテスト、また隠してないだろうな。」
「さいきんテスト返ってきてないもん。」
「〝100点とったらルアー500円まで買ってあげるサービス月間〟、先月で終わっちゃったじゃないか。」
「そうなんだよ。惜しかったよ。65点だったのに。」
「ぜんぜん惜しくないよ。いいのかそういうことで。新自由主義社会はきついぞ。生き残れるのはチャック・ノリスだけ。」

パパは心配だ。
お父さんは心配性
吐夢さんにあります。残1冊。
阿佐谷吐夢さんにあります。