プロレス会場へ観戦に行って、何かの弾みで「お客様ご起立願います」とかリングアナに言われると、たいていわたしはうつむいて寝たふりをする。なんで知らない人々との同調を強制されねばならんのだ、という思いがある。同じ意味で、10カウントゴングも黙とうも、ちょっと違うけど、署名運動も苦手だ。個人的には。
今でもつらい思い出だが、2002年の日韓ワールドカップのときは、地獄だった。新宿駅南口を埋め尽くした数千人がビジョン仰いでチャントやっていた。こっちは電車に乗りたいだけなのに、たいへん邪魔だった。電車乗せてくれよ。もちろん東京オリンピックなんて、まったくいらない。日本中がチャチャチャになるのは目に見えている。いまからとても憂鬱だ。
おっさんだけどココロは厨二だから。
でも、同調はいやだといっても、猪木の「1.2.3.ダァーッ」とかハンセンの「ウィーッ」とかは好物だ。わたしはプロレスの試合中、ひいきの選手が不利な情勢になると、会場の空気を読んで、タイミングを見計らい、率先して選手名を大声でコールする。するとほかのお客さんがノってくれて、会場じゅう割れんばかりのコールにつながる時もある。
わたしは手慣れてるし、上手なのだ。さっき自分で苦手だと言ったばかりの同調行為の煽動そのものだが、わたしのなかでそんなに矛盾はないのはなぜだろう。むしろ歌舞伎の「成田屋っ!」とか、舞台の「ブラボーッ!」に近いかな。玄人意識だとすれば鼻持ちならないが、素人が手を出すと大やけどするのは自明だ。そういえば今年の1.4東京ドームでは、棚橋の「愛してまーす」を、つい3万人分の1になってやっちゃったときは少し照れた。
ココロは厨二だけどおっさんだから。
まあでも、ジャパニーズ・オンリーな浦和レッズのゴール裏には一生行かない。だってそういう人たちが仕切ってる場所なんでしょ。というのは、報道情報からの表層的な偏見だ。頭や尻尾の一部だけ見て、ぜんぶ腐ってるって言われる方はたまらないだろう。役人官僚、東電社員、理研の研究者もかくやと。