わたしはフライロッドを握って岸辺にいる。
それまで快晴だったのににわかに天空から暗黒の雲濃く降りてきて、この一帯だけを包み込み、いきなり逆モーゼ状態の信じられないようなどしゃ降り。
河口にひしめき合うようにして立ち込んで釣っていた老若男女が、わあわあ叫びながら次々に岸へ上がって来る。あそこに入れたらいいなあと思って眺めていた最高のポイントが、わたしの目の前にぽっかり空いた。
川はみるみる増水し始めたが、まだあと少しなら釣りができる。よし、絶好のチャンス到来だ。
「いつ釣るの? 今でしょ!」と心でつぶやいて、わたしはフライを投げた。
どりゃー。
おれは本物のおっさんで真実のバカだとつくづく呆れてしまい、もう起きよう、と思って起きた。
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