調べもののため、著者の水口憲哉氏と国会図書館で待ち合わせる。40年前の博士論文を探して、広大な館内を二人して右往左往する。先生は「宝探しみたいなもんだ」とおっしゃるが、慣れない身にとってはきつい。「これが研究というものなのですか」と虫の息で聞いたら、先生は涼しい顔で「研究とはほとんどこういうことです」と返された。すみません。
文献を探して借りて複写してまた返すだけなのに、一階と二階、新館と本館を、地球を半周したかもしれないと思うほど往復した。あまりにも厳重で煩雑な国会図書館のシステムに閉口した私が、「これがアカデミズムなのですか」とこぼしたら、先生は目をぎょろりとさせて「アカデミズム? こんなのはお役所仕事ですよ」とにべもない。すみません。
東京海洋大学へ移動。「新しいサクラマス本」の構成についてブレストみたいな打ち合わせ。不肖私がこわごわジャブを突っ込むと、思いもよらぬロシアンフックが飛んでくる。それを歯を食いしばって受け、思いきってワンツーすると、水口先生が蝶のようにスウェーして、見えない角度から北斗百烈拳みたいな連打を打ってくる。拳をくらうほどに快感のラウンドが過ぎてゆく。
そんなわけで、「新しいサクラマス本」は当初の予定よりも大幅に内容が広く深くなることが、今から確定である。これだけたたかいを重ねた本はいい本になる。『フライの雑誌』次号87号にプレビューを掲載することになった。けっきょく午後五時過ぎまで大学にお邪魔していた。朝からとんでもなく密度の濃い時間であった。
品川から東京駅丸の内の丸善に移動。今日から18日まで開催している「FLY FISHER’S ギャラリー」を観にいく。会場入り口の廊下で、開高健さん関連のパネルと書籍、フライフィッシング関連の書籍が展示されている。フライの雑誌社の本をたくさん置いてくださった。今回の釣り関係の版元のなかではいちばん出品数が多いのではないか。
つるや釣具店さんの企画による「FLY FISHER’S ギャラリー」は、丸の内という土地柄か、大人の、落ち着いた、上品な来場者で大盛況だった。展示品はフライボックス、木製家具、皮革製品、各種工芸品からウェア類までバラエティ豊か。フライマン以外の方へフライフィッシングの魅力というか、文化をお伝えできるこのようなイベントはとても貴重である。関係者の方々のご尽力を思う。
じつは私は、昨日一昨日は、長野の山奥でイワナを釣っていた。んでもって明日と明後日は、日光でブルックを釣る。藤枝静男に『悲しいだけ』という名作がある。私は釣るだけ。だからなによと言われても困る。